泡泡


火曜日。今日は放課後メンバーがガレージに集合でみっちりと練習。
皆それぞれの度合いの気合を入れ練習に臨んでいる。

「これで貴方もお姫様気分。…お姫様…気分」

そんな中ささらはドキドキしながらそれを手に取る。中の色も入れ物も可愛い。
コンビニに置いてあるものにしてはちょっと高い。
練習しているメンバーに飲み物を買いに来ただけだけどこれは欲しい。
お小遣い前の財布と相談した結果、ギリギリだけど買えそうなのでレジへ。

「先輩ここに居たんですか」
「っ」
「え。…あの、なんで」

時間帯もちょっと遅いし誰も知った人なんて居ないと思ったのに。
ささらの番になった途端に店に入ってきた高宮。
何で来たんだろう、練習しているはずなのに。今物凄く気まずい。
ごめんね、と心の中で謝りながらも他人のフリをキめた。

「ごめんね。チョコあげるから許して」
「いいんです。大丈夫ですから」

高宮が店を出ると先に出て待っていたささらと合流し歩き出す。
買ったものを半分持ってもらい、何であんなことをしたのかという事情を話す。
彼は特に怒っている様子は無く別に構いませんからといいながらも
ささらが買った入浴剤を見せてとせがまれた。

「…こ、これなんだけど」

いい歳をして、こんな見た目の癖にお姫様気分とか恥かしい。
表立って笑われることはないと思うけれど心の中で笑われそう。
心臓に悪いからいっそネタにして笑ってくれたほうがいいかもしれない。
本当にヤバいところを見られたな、と自分の不運を呪うささら。

「泡風呂ですか。面白いですよね、あれ」
「え。元気、泡風呂なんてはいるんだ」
「ずっと昔なんですけど従妹が好きで。泊まりに来るたびにしてました」
「そっか。でもね、買っちゃったはいいんだけどお父さんもお母さんもこういうの嫌いで。
お兄ちゃんはいいよって言ってくれると思うんだけど。休みの昼間にするのがいいかな」

両親は入浴剤とかが嫌いで透明なお湯でないと嫌。だからまだお預け。
可愛いから眺めているだけでもいいかもしれない、そう思う事にする。

「お姫様気分か」
「口にしないで恥かしいから」
「僕もささら姫ってよぼうかな」
「だ、だめ。絶対だめ。言ったら元気、怒るからね」

今でも北川や理沙にそう呼ばれるのに慣れてないし思いっきり恥かしい。
それに加えて高宮まで仲間入りされたら学校に行けなくなってしまう。
お姫様気分に浸りたいのであって姫になりたいという訳ではない。
ということを多少テンパりながらも高宮に説明した。

「…先輩と泡風呂か。楽しいだろうな」
「じゃあ今度一緒に入ろうか」
「いいんですか」
「うん。この前私の練習付き合ってくれたし」
「あれは別に」

傍で見ていただけで諒太郎や平良のように的確な指示などできなかった。
それどころかドラムを叩くささらをうっとりと眺めていた。
だからそんな感謝されてしまうと気が引ける。悪い気はしない、けど。

「元気も練習がんばってね」
「はい」
「って言ったらプレッシャーになっちゃうかな」
「いえ。嬉しいです気にかけてもらえて」
「当たり前だよ。大事なメンバーだもん」
「…はい」

その通りなのだが、なんとなく寂しい高宮。もうすぐ家についてしまう。
何か言いたい、したい。けどタイミングがわからなくて手も繋げなくてさ迷う視線。
ささらは嬉しそうにバンドの事を喋っているが緊張であまり聞こえてこない。

「どうしたの元気。元気ないよ」
「……」
「あ、いまの冗談じゃないからね?本当にどうしたの?」

黙り込んでしまった高宮の顔を覗きこむささら。街灯が照らす道。
他に誰も居ないのだからちょっとくらい冒険してもいいだろう。
もしこれが他のメンバーだったらきっと何かしらしているはず。

「…なんでもないです」

でも、自分は出来なかった。視線を逸らす。

「もしかして平良君にイジメられたとか?かなめさんがまたわざと名前間違えてくるとか?」
「そんなんじゃないです。先輩と2人きりだから緊張しただけですから」
「それ分かる。私も緊張するよ。…お兄ちゃんでさえたまに緊張する」

男、というものにまだ慣れてないのだと自分で分析しているささら。慣れるもなにも
いきなりあんな事になってこんな関係になってそんな日々を過ごしているから。
そう思うと恨めしい気もする優しいけど狼さんなメンバーたち。

「僕と居る時も緊張しますか」

彼もそう。可愛い後輩だけど、男だ。
いきなり真顔で見つめられてささらは戸惑い頬を赤らめる。

「……うん。…する。…今、してる」
「そうですか。じゃあ、緊張しないように手を繋いで」
「…で?」
「……キス、しときましょう」

そっと抱き寄せられて目を閉じる。高宮にしては珍しい積極性かも。
何時もならこんな道端でキスなんて恥かしいから出来ないけど、
今は暗いし高宮の空気に押されてまあいいかとささらも身を任せた。


「元気大丈夫かな」

2人いい感じでガレージに戻ると睨むような剣呑な空気の3人がお出迎え。
練習が行き詰っているのだろうか?なんて思いながらささらは家に戻り
ゆっくりとお風呂にはいる。今日は無色透明だけど、
近いうちに必ず泡風呂にはいるのだ。そう思うと自然と笑みがこぼれた。

終わり


2011/01/25

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