合宿 5


「肝試し?」
「そ。曲も行き詰っちまったし、ここは1つ叫んでストレス解消だ」
「でも、お兄ちゃん、2人組なら1人あまるよ?」
「そいつがお化けだ」
「ええ、私お化け役は嫌だな」
「大丈夫。お前は大いに叫んでもらうぞ」
「う。それも…」

夜も更けて、何となくギスギスした空気だったメンバー。
だが諒太郎が立ち上がり唐突に肝試しをしようと言い出した。
ささらは怖いのがあまり好きではないが。否応なしにくじ引き。
乗り気でない平良も仕方なくクジを引いた。

「僕ですか!?」
「何か想像しにくい」
「俺かよ!」
「お前かよ」
「あ」
「……」

お化け役は高宮。諒太郎二色コンビ。ささら平良コンビ。
これで海の側にある古びたお寺へ肝試し。の前にみんなで盛り上がろうと恐い話し。
ロウソクに火を灯し怖い雰囲気を作り出す。

「で、俺はその時気づいたんだよ。ドアは鍵がかかってるし窓は閉まってた。
さっきの子どもはなんだったんだろうって」
「きゃああああっ」
「おいおい、まだ1人目だぞ」
「だって」
「じゃあ、次は僕が」

怪談で大いに盛り上がった所で。肝試しにはよろしい時間となり。
5分おきに2組のカップルが古びた寺から出発し裏の墓場へ向かう。
1番奥の観音からロウソクをもって来て寺に置いて終り。
最初は諒太郎・二色コンビ。

「…おい、変なところ触るなよ」
「お前こそ」
「恐いのか」
「まさか」
「じゃあ離れろ」
「お前こそ」

普段は喧嘩ばかりしているくせにお互いに怖いのか後ろから見れば仲良いカップル。
何時までもギュウギュウと腕を組んで奥へ入っていった。

「あの」
「……」
「服の裾、掴んでいい?」
「服が伸びる」
「じゃあズボン」
「脱げたらどうすんだよ」

続いてささらと平良の組みなのだが。
相手が平良となると下手に触れない。何でお兄ちゃんじゃないんだろう。
くじ運を恨みながらでもやっぱり怖いので何処か掴みたい。

「……」
「黙るなよ。あの2人みたいに腕組むのは嫌か」
「い、嫌じゃないよ!でも平良君が嫌じゃない?」
「服の裾よりかはマシだ」

いくぞ、と冷静に言われてささらは慌てて平良の隣についた。
オドオドしながらもやっぱり恐いのでこっそり腕を伸ばし掴む。

「うううっ」
「そんなに恐いか?」
「うん」
「じゃあ、楽しい話でもするか」
「うん!なに!?」
「太刀魚って魚の話し」

このとき、ささらは平良の見たことないほどの笑顔に恐怖を覚えた。
そして、それがこの先の楽しい話とやらに影響を及ぼすとは。

「い、いまささらの悲鳴がしなかったか!?」
「き、気のせいだろ。平良がいるんだぞ」
「そうだな、あいつは大丈夫だ。冷静だし、頭いいしな」
「そ、それより、こ、この岩骸骨っぽくないか」
「ば、ばかやろう!そんなこと言ったらみえてくるじゃねえか!」
「…お、おれトイレ」
「ばか!1人にするな!」

本当に年上なのかと聞きたくなるような2人の会話に
隠れて様子を見ていたお化け役の高宮もちょっとがっくり。

「ばか…」
「わりぃ」
「…ばか…」
「わりぃって」
「腰ぬけた」
「お前がそんくらいであんなにビビるなんて」
「だって…」

諒太郎が聞いた悲鳴は本物。ささらは石段にしゃがみこんで泣いていた。
平良の面白い話。太刀魚は水死体を食べるという会話に脚色をつけ、
死んだ太刀魚は墓場によく出て白くて丸々した女の子を食いにくる。
と脅し肩を叩いたのだ。なんとも幼稚な脅かし方法だったが彼女にはてきめん。

「あんだけシャウトできたらストレス発散できるだろ」
「私ストレスたまってないもん」
「いいな、お前は」
「どうせ能天気馬鹿だもん」

怖くて泣いているからかささらの喋り方が兄とするような普通のものに。
気を使ってもらうほうが苦手なので平良としてはそちらの方が良い。

「俺は何だろうな、思いあがり馬鹿か」
「平良君?」

そう言ってささらの隣に座る。

「わかんねー、俺の目指すものって何だろ。今日はじめて自分が全然わかんなくなった。
言われるまできがつかなかったなんて、俺は思いあがりもいいところだぜ」
「気づいたならいいじゃない」
「…二色さんのおかげだな」
「いい人だよね」
「何だ結構その気じゃん」
「どうかな、わからない。ずっとああだから」
「あ、そ」

二色は分からない人。優しいけど、まだ本心を明かしてもらえていないような気がする。
彼の目はどこか晒す事を恐れているような。でも自分には真っ直ぐにぶつかってくる。
それが時々辛くなる。だって自分はまだ何も分からない。

「よし。回復!いこう!」
「ああ」
「でも、腕は組ませて」

休憩を終えてまた歩き出す2人。
今度はちゃんとはっきり腕を組ませて欲しいと言えた。
平良は頷いてくれて。怖いけど最後まで行こうと決めた。


「お前長いぞ」
「そっちこそ」
「絞れよ」
「きっちまえ」
「わ!かけるな!」
「お前こそ!」

その頃の先方2人。なんとも幼稚な争いに高宮はもう帰りたくなっていた。
一応、オーソドックスにこんにゃくを釣り具につけてもっているが。
正直あんな2人を脅かしたくない。

「あ。先輩だ」

そこへ回復したささらと平良が。なんとも仲良さそうに腕など組んで。
ちょっと高宮は不機嫌だ。進路変更して2人の傍へよる。

「な。楽しい話だろ」
「うん!すごいね、あのチャールズ・ヴェルズが離婚10回なんて」
「愛は不滅だ、なんてうたっておいて」
「本当」

上手く気づかれないで後ろに回りこみ、こんにゃくを。

ぺちょ

「ん。なんだ?背中に冷たいものが」
「え?」

あ、やばい。高宮は必死に回避しようとするが。

「…き…きああああああああああああああああああああ!!!!」
「ささら!?ささらの声がしたぞ!」
「ささらちゃん!」

風が吹いて平良の首筋に当てるつもりが背中に当たって。
急いで持ち上げたら運悪くささらがその方向へ顔をむけたものだから。
大変。ベッチョリとした何かぬるいものがささらの顔面ヒット。

「ささら!兄ちゃんだぞ!」
「…ってえぇ、お前行き成り抱き付いてくるなよ」
「顔に、顔に何かくっついたー」
「わかったから離せ、苦しい」

無我夢中で目の前の平良に抱きついた。もとい、タックルした。
地面に倒れこむ2人。後ろから来た諒太郎と二色。

「平良!お前ささらに何抱き付いてんだ!」
「抱きつれてんですよ!助けてくださいよ!」
「よし、ささら、こっちこい」
「お兄ちゃ…ん」

慌ててきたため、彼らの格好はそのままである。
よって、ズボンは下がっている。

「「…あ」」

唯一の救いは、逆光でモノが見えなかったことか。

「すいません、僕の不注意で」
「いや、ある意味成功だったぜ」
「もう」
「先輩、怪我は」
「大丈夫」
「こっちが怪我人だ。ったく、ひでー目にあった」
「ごめんなさい」
「いいけど、それよりあの2人どうにかしないと」

しょんぼり2人組み。大事な妹に大事な部分を晒し威厳は急降下だ。
お隣も似たような理由でゲンナリしている。

「お兄ちゃん」
「違うんだ、俺はその」
「いいよ。助けに来てくれたんだよね」
「……」
「うれしかったよ。それに、逆光で見えなかったし」
「そうか」
「うん。やっぱりお兄ちゃんはカッコいい」
「そうか!」
「うん」
「俺はー」

涙を溜め込んだ二色。ここでNOとはいえまい。

「う、うん…素敵ですよ」

作り笑いでなんとか切り抜けた。
上機嫌の諒太郎と二色を引きつれて家に戻る。

「あの、二色さん」
「何だよ」
「昼間は生意気言ってすいませんでした、俺粋がってました」
「……」
「明日からはちゃんと他の音も聴きますから」
「そう。いいなじゃない」

二色に挨拶をして平良が寝室に行くとすでに高宮は眠っている。
ささらも眠っているが諒太郎はその隣で起きていた。
妹に腕マクラをしてかなりご満悦な様子。

「話しはついたか」
「はい。てか、二色さん来たらまた揉めますよ」
「ああ、大丈夫。ささらを起すなって言えば」
「なるほど」
「ったくよー、ふざけてるよな」
「何がすか」

平良は高宮の隣に寝転ぶとささらの髪をないであげながら諒太郎が言う。
その愛しそうなものを見る目は家族のものとは少し違う気がした。

「こいつが妹じゃなかったらなって。将来の事なんか気にしなくったっていいのにな」
「……」
「俺は一時だけささらに期関わるのが嫌だった。似てない似てないって仲間にも言われて、
確かにそうだなって思った頃もあったんだ。何でこいつが妹なんだろうって。最低だろ」
「へえ、意外っすね」

彼に盲目的に妹を大事にしているイメージがあったから。
まさかそんな過去があったなんて。今からは誰も想像出来ない。
平良は諒太郎の方を見ず天井を眺めながら返事する。

「だろ。でもささらは俺が守ってやらないといけないんだって気付いた。
こいつを守れるのは俺だけだ。俺しかいない」
「……」
「そう思ったら。もう、誰にも渡せなくなった」
「究極のドシスコンですね」
「はは、だな。しょーもねー奴だ。もう寝る」

大事そうにささらを抱きしめて諒太郎も目を閉じた。
平良も寝ようと目を閉じた。


「よっし、今週で最後だ。悔いがないように全力でぶつかるぞ」
「おう」
「じゃ、ぶっ通しで練習いくぞ」
「おーう」

大会まであと1週間。ここにいる時間もあとわずか。
楽しかった合宿もそろそろ終りで、なんだか寂しく感じる。

「そうかい、3日後には帰っちまうのかい」
「うん。色々してくれてありがとうございました」
「いいんだよ、ささらちゃんには本当によくしてもらったんだ」
「野菜美味しかったです」
「ありがとうね、本当に…もう…」
「な、泣かないでくださいっ」
「うんうん…」

トキコさんとの別れもなんだか湿っぽくなって。
山ほど野菜をくれた。

「ねえ、君」
「わ、私ですか」
「そうそう。ね。よかったら一緒に泳がない?」
「結構です」
「いいじゃない、ね」
「テメーは日本語わかんねーのか」
「ああ?…っと、すいませんでしたっ」
「?」

珍しい事があるものだとナンパをどう断るか迷っていたら、後ろから声。
見るなり男は逃げていった。

「ささらちゃん、遅いから心配したよ」
「に、二色さんっ!?」
「どうしたの」
「その頭…ど、どうしたんですかっ」
「え?」

何か焦げてじゃりじゃりしてる。

「お兄ちゃんに花火跡に投げ込まれた!?」
「あっちっち、そうなんだよ。おかげでソフトアフロ」
「何で?どうして」

喧嘩なんかしてなかったのに。
何でそんな暴挙にでるのだろう。
立派なソフトアフロは面白いけど。

「優勝したらの話でもりあがってさ」
「あ。賞金を全部欲しいっていったとか」
「いやいや」
「副賞のビンテージギターが欲しいっていった」
「あれは平良のだ」
「じゃあ」
「ささらちゃんとデートさせてっていった」
「そ、それは怒りますよ…」
「ねえ、だめかな」
「デートですか?」
「優勝したら、何もいらないから君とデートしたいな」

視線はどうしてもチリチリの頭。
どんなにカッコいい顔をされてもやっぱりチリチリに目がいく。
笑ってはいけないけどすごく笑えて困る。

「えっと…いいですよ、…ふふ…」
「え!いいの!やった!」
「でも、夜には帰してくださいね。お兄ちゃん心配するから」
「うん!うんー!やった!」
「ああ、アフロで踊らないで…ははは…だめ…お腹が…いたい」


帰って高宮にアフロを切ってもらうまでささらは爆笑地獄に陥り、
次の日お腹が痛かったという。

「明日で帰るのか。何か寂しいな」
「ですね」
「お前には感謝しねーとな、こんないいとこ教えてもらって」
「そんな」
「ね。お兄ちゃん、みんな」
「何だ?」
「食べたいものを言って。今日は最後の夕食だから、頑張る」
「えっと…」
「俺の…」
「食いたいものか…」

じーっと集まる視線。

「なに?私が…なに?」

途端みんな視線を外し。

「いや。何がいいかな」
「俺あんまりコッテリは」
「僕はご飯が食べたいです!」
「そーだな、スシ!」
「いいねえ!」
「じゃあ魚屋さんに買い物行ってくるね。酢もかってこなきゃ」
「樽は自分の実家から持ってきます」
「うん。じゃあ行ってくるね」
「気をつけていってこいよ」
「うん」

視線の意味が気になるけれど、
籠をもって街へ出て行くささらを見送って。一端沈黙する面々。

「よう、かなめ」
「何だよ」
「お前、今ささらを食いてえとか思ったろ」
「な、なんだその下品な表現は。お前こそ、ささらちゃんを見つめてたろ」
「ふっ、見てたのは俺だけじゃねえぞ。なあ、平良、高宮」
「……」
「……」
「何だよお前ら、まさか」
「まあまあ、偶然かもしれないから気にしないけどな」
「お前にしては心が広いな」
「…次はねぇがな」

お前ら抜け駆けは許さねえぞ。野獣が威嚇する時の眼。
いっきに冷える空気に慌てて高宮が実家へ戻った。
平良も気まずくてベースを弾きにいった。

「ある意味成功で、ある意味失敗な合宿だったな」
「だなー」
「俺、最後だし一泳ぎしてくるわ」
「あ。俺も」

それぞれに最後の時間をすごし、それぞれに芽生えた思いに
緊張しながら。時間はゆっくり、でも確実に過ぎていった。

「チラシに挑戦してみたの」
「おお!」
「すげー!」
「本格的だな」
「うん。私だけじゃ失敗しちゃうかもしれないから、
トキコさんにも教えてもらって。ちょと分けてあげたら美味しいって言ってくれて」
「先輩の料理の腕はプロ級ですから」
「あーあ、合宿が終ったらもう食べられないんだね」
「俺は食えるけどな」
「ぐ」

彩り綺麗によそわれたチラシを一口。魚や野菜の美味しさもあるが
やはりささらの腕はプロ級だ。
喜んでもらっているのを、ささらも満足げに見ている。

「よし!じゃあ、時間もあるし反省会するぞ」
「反省会?」
「そう。合宿に参加してよかった事、悪かった事、これからどうするを発表する。ささらもだぞ」
「はい」

では、と言いだしっぺの諒太郎が。

「良かった事はメンバーの考えを把握できた事だ。
今まではただ練習だけして自分たちのチームワークとか考えてなかったし。
悪かったのは妹を連れてきたことかな。これからは控えないと」
「え。私邪魔した!?」

行き成りの指摘にささらは慌てた。内心、自分が来た所為で
練習が上手く進まなかったのではと危惧していたから。
泣きそうな顔をするささら。諒太郎はそうじゃないと慌てて。

「いや。その、何だ、ライバルが増えたというかなんというか」
「ごめんなさい」
「いや!悪い所は二色が馬鹿ばっかりして和を乱した事だ!」
「え!俺!」
「でも」
「いいんだ。ほれ、次はお前」

2番目は二色。文句を言われてちょっと不機嫌そうだ。

「よかったのは勿論ささらちゃんと過ごせた事だ。で、悪かったのは
ついでが3人もいたこと。これからは2人きりで行く」
「お前合宿の反省だっていったろ」
「そうだな、自分について考え直せたこと。で。ますます欲しくなったこと」
「じゃあ次!たく」

3番目は平良。

「そうすね、やっぱ他のメンバーに付いてよく知れたこと。自分の事も少し見直せた。
悪かったのは上の2人が喧嘩ばっかで、もっと進んだはずなのに
結局すんなり曲が進まなかった事。次からはもっと順序よくお願いしますよ」
「う」
「申し訳ない」
「じゃ、次いってみよー」

4番目は高宮。

「えっと、良かったのはでルールがよく分かったこと。悪かったのは…」
「何で俺を見るのよ」
「いえ」
「何よ」
「二色さんが仲良くなったつもりでも中坊って読んでくること」
「わかってるよ、お前はた・か・ま・つ、だろ」
「高宮です!」
「わかってる。はい次!」
「絶対わかってない」

最後はささら。どこか恥ずかしそうだが。
咳払いして。

「えっと、良かったのは私でも誰かの役にたつんだなって思ったこと。
悪かったのは…私のせいで一番重要なことが捗らなかったこと」
「気にするなよ」
「そうだよ」
「そうです」
「ありがとう。あ。あと!自分にちょっと自信がもてたことかな?」
「へえ。そりゃよかった」
「あのね、みんなに内緒にしてたことがあるの」

やたらニコニコするささらに、興味いっぱいの面々。

「何だよもったいぶらないで教えろよ」
「えへへ。あのね、皆が寝静まってから私泳いでたの」
「へえ、いいな。夜の海か」
「その、裸で」

はだか。ヌード。

つまり下着も何も纏わずに。生まれたままの姿で。
それがどれだけショックな事か男達の顔から察するにあまりある。
ささらとしてはそんな事が出来た自分すごいだったのだろうが。

「な…なんでぇえええええ!?」
「え、あ、だって、ほら、よく映画とかで女優が…わ、わかってるよ!
そりゃ、あんなハリウッド女優みたいじゃないけど!でも、誰も見てないし。
何か勇気がでて……で、でもすぐにやめたから!ほんの数秒だけ!」

脱ぐのだって海の中でやったし着るのももちろん中。
だからそんな危なくないはず。月明かりが綺麗だったからつい。
色々と理由を並べるささらだがそんな事関係なく男たちはパニック。

「た、高宮!おい!しっかりしろ!」
「やべ…」
「平良!トイレへ行くのはやめろ!俺も行きたい!」
「吐くほど気持ち悪かったの!?ご、ごめんなさい!つい調子に乗って」
「ち、ちが…ああぁ」
「高宮死ぬな!せっかくの新曲が台無しだろうが!」
「優勝できないとデートが!」
「何だとテメエ!そんなもん許せるか!」
「アポはとった!」
「ささらはOKだしても俺がださん!」
「何様だお前!」
「俺様だーー!!!」

想像してしまった青春まっさかりな男たちはその日深夜まで興奮状態が治まらず、
延々大声で罵り合っていた。ささらはまさかここまで気分を害されるとは思わず
ショックを受けて寝込んでいたが構えるものはもはやいなかった。


「おはよう」
「うす」

翌朝。一番に起きて料理を始めるささら。
二番目に下りてきたのは平良。だがお互いギクシャク。

「……あのね」
「いや、言うな」
「うん」
「俺も他のやつも男だ、あんまり軽く裸とかいうのはやめたほうが良い」
「そうだよね、…気持ち…悪いよね」
「片倉」
「な、なに」
「あんまり煽るのはやめてくれ、じゃなきゃ俺も我慢の限界がある」
「へえ!?」

卵を取ろうと冷蔵庫にかけた手がいつの間にか平良にひっぱられて。
めちゃくちゃ目の前に顔がきて。ささらは顔がまっかを通り越して真っ青だ。

「お前とはマジ…だから」
「?」

マジ、なんだろう?と聞きたかったのだがあまりにも平良が真面目な顔で。
どっちかというと殴りかかってきそうなくらいの顔で恐かった。

「おはようございます」
「あ。おはよう」
「……どうも」
「あ、あの、…ごめんね」
「いえ!先輩はやっぱり女神様です!」
「え?」
「じゃあ、僕テーブル拭いてきます!」
「う、うん」

大丈夫だろうか、と頭の心配をついしてしまうささらであるが。
最後の朝食なだけに手の込んだ料理をしようと台所へ向かう。

『お兄ちゃん!』
「さ、ささら…お前、その格好はっ」
『…裸、だよ』
「…綺麗だ」
『お兄ちゃんにしか、見せないんだから』
「ああ、そうだな…」
『…お兄ちゃん…』
「ささら…」

ぎゅ

「…ささら」
「ささらちゃん」

……。

「さって、ご飯よそうかな」
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!」
「わああああああああああああああああああ!!!!」
「な、なに!?何の音!?」

獣の遠吠え宜しく、けたたましい悲鳴が2つ。
物凄い音を立ててこっちへ走ってきた。

「テメエとは決着つけてやる!」
「望む所だ!」
「お兄ちゃん! 二色さんも!今日で帰るんだから大人しくして!」
「いいんだささら、このド変態とは決着をつけるべきなんだ」
「そうだよ、どっちがささらちゃんと甘い夢をみるか勝負だ!」
「ほっとけ、それより朝飯」
「え。あ。…うん」

仕方なく喧嘩する2人を尻目に朝食を準備する。
昼にはここを片付けてまた電車を乗り継いで夕方には家に帰るのだ。
このメンバーとも昼まで。できれば朝くらいゆっくり食べたかった。

「先輩、よかったらビーチバレーでもしませんか」
「あ。うん。いいね」
「俺も参加する」
「え。平良君も?」
「何だよ、わりーのかよ」
「ううん。それじゃ三角形でやろうよ」
「はい」

朝食を終えて、片付いた所で3人海に出る。
諒太郎たちはまだ喧嘩をしているようですでに人目を引いているが気にしない。
ある意味こちらも成長したとも言える。

「ねえ、私達もいれてくれない?」
「3人じゃつまらないでしょ?」
「ね?」

そこへ、お姉さま2組が入ってくる。胸も大きくて、クビレも綺麗で、足も長い。無論美人。
ささらは見せつけられたようで、そのまま一歩二歩と後ろへ下がってしまう。
夜は脱げても昼間はまだまだTシャツは外せない。

「申し訳ありませんが僕たちはこのメンバーでやりますから、他の人を探してください」
「遠慮しないでいいから」
「そうそう。私達が入ったほうがずっと面白いよ」
「だったら2人でやればいいだろ。邪魔すんなよ」
「な、なによ…せっかく誘ってあげたのに」
「ま、子どもにはわからないか」
「可愛そう」

不機嫌になったお姉さん方はそのままどこかへいってしまった。
萎むささら。

「さあ。やりましょう」
「私…」
「落したら罰ゲームな」
「え!?ええ!?わああ!」

不意打ちのトスに慌てて手を上げる。
急いで高宮にパス。そのまま、いつの間にか熱中してしまっていた。

「はー」
「可愛いささらちゃん」
「テメエ、まだ言うか」
「可愛いものは仕方が無い」
「でも、ま。可愛いよな」
「あ。ころんだ」
「はは」

散々殴り合って。
でも腹が減ったのでやめた2人は座敷からのんびりビーチバレーをする3人を見ていた。
焦点はもちろんささら。ブカブカしたTシャツをきて一生懸命走り回って。
すでにささらフィルターで目を覆われている2人には可愛いの一言だ。

「ねえ、よかったら私らとビーチバレーしない?」
「ちょうど2人だし、楽しいと思うな」

そこへよせばいいのに先ほどのお姉さん2人組みがその視線を遮る形で前に立ち止まった。
いっきに不機嫌な顔になるが、一応堪えて。

「いや、俺らはいいや」
「そうそう」
「またー、いいのよ?私達に気を使わなくたって」
「どっかのお子様じゃないんだし、楽しもうよ」

笑顔な2人をイラつきモードで睨む。
だが、運悪くお姉さま方には眩しくて目を細めているにしか見えなかったらしい。
綺麗な笑顔でのってくるのをまっている。と。

「先輩!」
「はは、転んじゃった…」

なに!!!!そんなベストショットを見逃すなんて。
怒りがピークに来たと同時に、可愛いショットを見逃した怒りも被さって。

「ねえ、いこうよ」
「オイル塗らせてあげるから」

プチーンと切れた。

「「邪魔なんだよこのドブスどもが!!!!」」

2人の息のあった怒声に、お姉さまたちは慌てて逃げ出した。
飢えた獣にちょっかいをだしてはいけない。

「今物凄く恐い声がしたような」
「気のせいだろ」
「そうですよ、さて。罰ゲームなんにしましょうか」
「う。本当にしなきゃだめ?」
「だめ」
「何がいいかな」
「何か平良君意地悪―」
「ルールはルールだ、だろ?」
「はい!」
「ひ、ひどい事はやめてね」


帰りの電車を待つホーム。顔が真っ赤なささらに、同じく真っ赤な平良と高宮。
ささらは恥ずかしさで真っ赤。他の2人は張り手で真っ赤。

「ちょっと悪乗りしただけじゃないすか」
「殺されなかっただけでもいいとおもえ」
「まったく油断も隙もあったもんじゃねえな」
「でも、悔いは無いです」

罰ゲームは「どこでもいいからキス」。
ちょっと悪乗りしすぎたかな、と思ったのだが真面目な性格のささらだ、
それをやってしまうのはわかっていたことで。

「手?手か、あ、でも、汚いって思われたら…からだ?いや、さすがに体はヤバいよね。
足?ええ、私ちょっとそう言う趣味は…じゃあ、…いや、そんな恥ずかしい場所は無理だ。
えっと、…ううん、唇なんておこがましい」

散々悩んだ結果、ささらは実行した。

「くそー俺も参加すればよかった」
「まじ損した!」
「でこチュウか、……ささららしいな」
「何ホノボノしてんだ、馬鹿兄貴。あーくそー」
「あ。電車が来たぜ」


つづく


2007/06/19

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