それからのこと


気持ちが不安定だったとはいえ、5人以外の男に心が揺れたささら。
そんな自分が許せなくてずっと部屋に篭っていた。でもそれも昨日まで。
今日は久々に外に出て食事をする事に。

「さ。食べなさい」
「あの」
「ずっと食べてなかったのよ。さ、食べるの」

エリが注文したのはこれでもかと肉。肉。肉。
確かにお腹は空いているがそんなには食べられない。
どんどんテーブルに乗せられる料理たち。

「ちょっとでいいよ。せっかく少し痩せたのに」
「だめ!おたべ!」
「悪い子だ。俺が食べさせてあげようね」

財布要因としてついて来ていた二色は徐に服を脱ぎだす。
食べさせるだけのはずなのになんで脱ぐ必要性があるのか。
何て考えていたらもう上着に手が。ささらはフォークを握った。

「食べます!食べます!だから脱がないで!」
「こっちも食べてささらちゃん。残したら、分かるよね?」
「はい!おいしーい!」
「たっぷり食べてしっかり戻ってね」
「そんな」
「スタミナがないと耐えられないでしょ」

ニッコリ笑顔でささらの頬にキスする二色。ささらは赤面しエリは呆れていた。
あれ以来ささらを甘やかす集団はますます過激になった。それはもう、
ささらに箸すら持たせないほどに。もうバカ集団としか言いようがない。


「お帰り」

エリと二色から解放され満腹を通り越し少々胃がやばいささら。
それでも家に入ると諒太郎が待っていて。
そのまま2階の彼の部屋に入った。ソファに座って一休み。

「お兄ちゃん」
「俺、かなめに完敗だった。俺がやったのはお前を打っただけだった。
あいつはちゃんと説得したのに。何やってたんだろう」

ささらを思いやるよりも自分の感情を優先させた。我慢できなくて。
でも二色はちゃんと気持ちを落ち着かせてささらに冷静に話をした。
だからこそ彼女は冷静になりこうして部屋から出て話してくれている。

「また2人で旅行にいこうよ」
「でも、俺なんか」

打った手でささらに触れる事に抵抗がある。そんな資格ないと。

「じゃあ、かなめさんと行こうかな」
「それは!」

嫌だ。二色と今以上仲良くなられたら困る。
諒太郎は慌ててささらを見た。彼女は笑って。
そしてキスをした。

「心配させてごめんね」
「それはもう、いいんだ。俺こそお前を打ってごめん」
「まだ痛いの」
「何だって!?ま、待ってろ湿布を…いや、病院だ!すぐ連れてってやるからな!」

頬に手を添えて痛がるそぶりをするささら。まだ痛いなんて。
もしかして骨にヒビが入ったとか?それともまた他の病気に。
諒太郎はパニックになってバイクのキーを取ろうと立ち上がる。

「いたいなーいたたたたー」
「ささら行くぞ!……おいささら?」

痛い痛い言いながら何故か諒太郎のベッドへ寝転ぶささら。
病院へ行った方がいいと思うのだが。彼女は寝転んで動かない。
最初は動けないほどに痛いのかと心配していたのだが。

「…早く癒して」

わざとか自然にかスカートの間からちらりと覗くパンツ。自分を誘う色っぽい目。
そして甘い言葉。反省して欲望を抑えようとしていた諒太郎だったが
その姿はあまりに刺激的過ぎて。キーを元の場所に戻し
ズボンのチャックをおろしながらプールにでも飛び込むようにベッドに飛び込む。

「精一杯やらせて頂きます」
「あん。…いたい」

何て呼ばれてもいい。今ここで我慢したら絶対後悔する。

「ささら…また女になって……すごい」
「…いい?」
「いい」

ささらに惚れている以上自分は二色のように思いやることは難しい。
とても悔しいけど。不器用でも乱暴でもそれが自分の愛し方らしい。
諒太郎は後からそう悟って苦笑いした。



「なあ、片倉って最近綺麗だよな」
「体型はあんまりかわってねーのに」
「なんか、そ、そそるよな」
「ああ…抱きしめたら柔らかそう…」

1つの大きな山を越えてまた少し精神的に成長したささら。
自分ではまだ何もかわってないと思っている彼女だが、
周囲はその変化に気づいている。色気のようなものも。

「片倉さん。どうかな、俺と今度」
「消えろ」
「わ!すいませんでしたー!」
「平良君?今の人知り合い?」
「行くぞ」

見向きもされなかったのが嘘のようにポツポツとささらに声をかける男子。
彼女自身はまさか自分が誘われているとは知らず不思議そう。
よく人に道を聞かれるタイプだからその一種かと変なボケをかましていた。

「あのね、最近よく話しかけられるんだけど」
「……」
「エリちゃんたらその人たちが私の事誘ってるとか言って。そんな訳」
「おい」
「ん?お腹すいた?」
「裏庭行くぞ」
「何で?次は国語でこれが終わったらお昼ごは…ちょっと!」

彼女が注目を浴びるたびに妬いた狼に連れ去られて美味しく食べらる。
納得がいかないささらだがみんな頭が良いのか上手く丸め込まれて。
どれだけ小悪魔がレベルアップしてもささらはやっぱりささらであった。


「かなめさんは何色が好き?」
「ピンク」
「…へえ」

放課後は二色に誘われてお出かけ。
何でも新しく浴衣を新調したいから付き合って欲しいといわれて。
自分のセンスなんてと最初は断わったのだがどうしてもと泣きつかれた。
あとお揃いで白雪にも作るとか言われて乗り気になった。

「本当に好きな色だよ?鮮やかで、滑らかで、柔らかい」

何て言いながらささらの胸の先をツンと突く。

「もう。かなめさんなんか知らない」
「ごめん。機嫌治して。…君があんまり一生懸命だからさ」
「それはかなめさんに似合う浴衣を選びたくて」

構って欲しかったんだと耳元で囁く。分かったから。
すいませんでしたから甘く言うのはやめてください。
恥かしがるささらを嬉しそうに見つめる二色。

「あ。かなめさん!これどうですか!」
「ん?紺の東雲か。悪くないね」
「あ!あっちも!うー!こっちもー!」
「俺の体は一つなんだけどなあ」
「うーん」

暢気に笑っているがささらは真剣だ。
選ぶといった以上へんてこなものは選べない。スマートな二色だ、
地味な柄でも着こなすだろうがそれもどうかと思うし。

「ありがとう、俺の為にそんな一生懸命になってくれて」
「かなめさんは何でも似合うから大変ですけどね」
「でもいいかげん俺にしなよ。いつまでも5人でゾロゾロ歩くのはしんどいでしょ?」
「別に?みんな私にくっついてるわけじゃないし大勢の方が楽しいですよ」
「そうだけど」
「あ!あれなんかどうでしょう!」
「…ささらちゃん」

結局、色々考えすぎたせいで頭がパンクしたらしきささらは倒れこみ。
二色が選んだものを買って店をでた。

「あ…」
「君の好む柄を着れなくてごめんね、でもさ、俺、…うれしかったよ」
「…ここどこ」

ささらが次に目を覚ましたらそこはベッドの中で。
二色の部屋じゃないから何処かのホテル。
柔らかなベッドが心地いい。もう少し寝たい。

「寝ないで。ね、俺と一緒に居よう。もっとずっと」
「じゃあ、何処か行きます?」
「南の島なんかいいよね」
「もう。真面目に」
「本気さ。でも、それはハネムーンにとっておこう」
「…私は、…静かな場所がいいな、自然があって」
「2人だけで、愛し合える場所」

ベッドに入り真剣な眼差しを向けられてささらは抵抗しなかった。
ただ体を気遣って抱きしめられて一緒に寝ただけだけど。
二色の優しさに何度助けられているのだろうかと思いながら、
いつの間にかぐっすり眠ってしまった。
お陰で送ってもらって帰ったら諒太郎と大喧嘩。何時もの殴り合い。

「死ね」
「お前が死ね」
「そんな事言う人嫌い」
「生きろ」
「お前もな」

個人では凄く惹かれるのに。なんで2人になるとこうも駄目になるのか。謎。
二色と別れ自分の部屋に入ったささらはエリからの電話をとり暫く話をしている
ようだったが何故か落ち込んだ様子で部屋を出て2階のテレビのある部屋に居た。

「ささらは今だれともお話しません」
「してるだろ」
「……」
「何をいわれたんだ」

心配して隣に座る諒太郎だがささらは不機嫌なまま。

「……」
「言ってみ」
「ささらは動物に例えるとパンダだそうです」

プクっと頬を膨らませて怒っている顔。
エリと誰がどんな動物に似ているかの話をしていて色々出てきた中で
何故か自分がパンダであったことにショックを受けた。パンダって。

「そっか」
「パンダだよ、パンダ」
「いいじゃないか、かわいい」
「そりゃかわいいけど、パンダって目が鋭いのよ」
「そうか」
「…うん」

ウサギや猫なんていわないけど、せめてもう少し小動物な感じで。
ジャイアントで常に食べてるイメージで。切なくなってくる。
確かに可愛いけど。いじけるささらの肩を抱く諒太郎。

「俺は好きだ。あいつは人気者だろ?パンダ」
「そっか。カバとかゴリラとかいわれるよりずっといいね」
「因みに俺は?」
「え?犬!」
「そうか犬か。うんうん。かっこいいもんな、お前を守るぞ」

妙に納得している諒太郎。ささらは視線を逸らし。

「…匂いとか」

ボソッと呟く。

「え?今なんてった!匂い?」
「冗談だよ」
「冗談ぽくない。妙にリアルな言い方だった!」

何てじゃれあいをしながら夜は更けた。



「おい」
「はい」
「今日泊まりな」

放課後帰る準備をしているささらの傍に平良が来て。
あまりにもそっけないお泊りの誘い。いや、誘いじゃない。
もう決まっている事らしい彼の中では。
そんな話全然聞いてなかったささらはポカンとするばかり。

「どうして急に」
「別に。理由がないとだめか」
「ううん、…いいよ」

ビックリはしたけど、彼らしいとささらは微笑んだ。
エリにアリバイを作ってもらい両親を説得させて。
途中のコンビニで下着を買う。

「もう1個かって家に置いておくか」
「え。い、いいよ…」
「面倒だろ」
「だって洗濯…」

平良家の洗濯物にLサイズパンツが1枚紛れ込んでいるなんて切ない。

「妹いるから」
「え。平良君妹さんいるんだ」
「義理だけどな」
「へえ…」

どんな人だろう。もっと早く教えてくれてもよかったのに。
だけどいちいち家族構成を説明してくれるような人ではない。
路地の入り組んだ正直言って古ぼけた家。
前は人気がなかったが今回は大いに人の気配がする。

「いらっちゃい」
「おにーたんお帰り」

玄関に入るとドタドタと足音がして、出迎えたのは
小学校に入るか入らないかくらいの女の子たち。

「こんにちは」
「……」
「……」
「あ。あれ、…嫌われたかなぁ」

この子たちが平良の妹だろうか。2人同じ顔をしている。
双子なんて見るのは初めてでちょっとビックリ。可愛い子だ。
でも返事してくれなくてささらの顔を見るとじっと見つめてくる。

「おにーたんの彼女だ」
「かわいいー」

ニコっと笑ってくれたから嫌われてはないと思う。
さっさと中に入る平良に続いてささらも中にあがらせてもらった。
妹たちは平良の手をそれぞれ掴んで離さない。
平良も別にそれを振りほどこうとしないから優しい兄なのだろう。

「おい、風呂は?」
「わかしたよ」
「マコとはいろ」
「リセも」

ねーねーと手を引っ張って一緒に入ろうとおねだりする妹たち。
もしかして毎回一緒に入っているのだろうか。何て柄に合わない光景。
口にしたら怒られるんだろうな。でも言いたい。平良君可愛い。

「だめだ」
「むー」
「やだやだ」
「いいよ。どうぞどうぞ入って。兄妹仲良くしなきゃ」
「お前な」

平良が振り返ると馬鹿みたいにほのぼの顔のささら。この光景を
兄妹の仲良しイベントみたいなくらいの気持ちで見ているのだろう。
彼女に勝手に和まれているのがよく分かった。

「おにーたん」
「はいろ」
「離せ。今度入るから」
「こんどっていつー!」
「じゃあ私部屋で待ってるから」
「おい!」

凄い笑顔でささらは平良の部屋へ。
2人で風呂に入る予定がぶち壊しだ。

「はあ…」

部屋に入るとベッドに寝転ぶ。視線の先にはベースと雑誌とCDにミシン。
彼の部屋はシンプルだがわかりやすい。下からは笑い声が聞こえる。
クールな平良でも家族には優しい。ささらはつい笑ってしまった。


「悪いな」

30分ほどして平良が部屋に上がってきた。風呂上りの濡れた髪。
ベッドに寝転んでいたから直ぐに上に乗ってきたけれど。
ささらは素早く彼を引き離し立ち上がる。

「だ、だめ。今日体育あったから」
「風呂、か」
「うん。楽しそうだったね。おにーたん」
「そうだな。でも、お前とはもっと楽しいことをするぞ?」
「…お風呂行きます」

早く戻れと言わんばかりにベッドに座ってこちらを見つめる平良。
ささらはゆっくりじっくり体を洗おうと決めて風呂場へ。2人では狭いけれど
1人分にはいい。妹たちが遊んだらしき玩具もある。可愛いものだ。
こんな生活感のある風呂場は嫌いではない。体を洗おうと湯船を出て椅子に座る。

「あ。や、やだ…平良君きちゃったのかな」

後ろから何やらゴトゴト音がする。人の気配も。

「まって…平良く」

ここでするとなるとちょっと厳しい。痛いし。狭いし。

「うわぁ」
「……」
「ごめんねー」

振り返った先に居たのは知らない男性。誰だこの人は。

「きゃあああああああああああああああああ!!!!!!」

ささらの悲鳴は祖父の家まで聞こえたという。
何事かとあわてて降りてきた平良が見たのは
風呂場の前で硬直する男と必死に体を隠すささら。

「おいおい、父ちゃんを殴るやつがあるか」
「ふざけんな」

急いでタオルを持って男を押しのけささらにかける。
ついでに未だささらを覗き込む男に拳骨を入れた。

「いやー悪かったね、舞子だと思ったもんで」
「うそ付け」
「…いえ、…私も大きな声を出してしまって」
「それにしてもいい体してるよ君。おっぱい柔らかそう…」

思い出しているのかニヤっと笑っている男にまた蹴り。

「殺す」
「まあまあ、落ち着け。殺すのはよくないぞ」

見た目若いので最初は平良の兄だと思ったこの男はなんと父親。
若すぎてビックリしてしまった。ついでに言うと少しスケベ。
その度に息子に容赦なく攻撃されていたが。

「悪い。大丈夫か」
「うん。もう平気」
「…1人暮らしするかな」

部屋に入りベッドに座る2人。ささらは正直まだドキドキしているけれど。
あんまり引きずっていたら平良が父親を殴りこみに行きそうで。

「でも妹さんたちが寂しがるよ。平良君に懐いてるし」
「あいつ等暇なだけだ」
「そんな事」
「それより、ヤるか」
「でも声」

下には父親や妹たちが居るみたいだし。
どうも壁が厚いとは思えないし。ささらは少し恥かしそう。
ゆっくりベッドに組み敷かれ軽いキスをする。

「気にすんな」
「そうだね、もう見られちゃったし」
「…やっぱ殺してくる」
「ウソウソやめて!冗談!いやーー!」
「は、は、は。…さ、脱げ」
「ま、またそんな意地悪するんだらぁ」

平良の方が上手か。冗談なんて言うんじゃなかった。
夕飯を食べないままに時間が過ぎて当然のごとく夜中お腹が空いた2人。
何か見て来ると下りて行った平良に申し訳ないとついてきたささら。
毎晩聞かされているという夫婦の激しい営みをかいくぐり。
適当に食べ物をもって部屋に戻ってくる。恥かしい。恥かしすぎる。

「…よくやるよ」
「仲がよくていいんじゃない?その、…びっくりしたけど」
「そういうもんか」

ベッドに座って自分の親に呆れている様子の平良。
ささらもその隣に彼に座り身を寄せる。
自分の両親はとっくにそんな時期は過ぎたろう。
もしそんな光景見てしまったら結構ショックかもしれない。

「平良君?」

突然黙ってしまった彼に眠ったのかと隣を見る。
彼は黙って此方を見つめていた。何か言いたそう。

「お前は、最初より俺と相性があってるとおもうか」
「そうだね、最初は恐いばっかりで自分じゃ何もできなかったけど。
今はなにをしたらいいか少しはわかってきたから、その分よくなったかな」
「じゃあ、少しは俺を愛してくれてるか」
「……」

ストレートな言葉。ささらは返す言葉が出ない。

「お前、もう答えがでてるんじゃないか」
「そんな事」

ない。はず。だけど。
何でだろう、あの夜の事が頭に浮かんでしまった。
急いで頭からかき消す。まだ誰とも決まってない。

「白けちまったな」
「ごめんなさい」
「いいから、…早く俺のもんになれ」

ゆっくりと押し倒されまた抱かれる。
その日の平良はどこか変で。激しいのに優しかった。
彼もささらとの時間で変わってきていると言う事か。


「にーたんミカンどっち」
「どっちー」
「おい。どっちだ」

翌朝。ミカンを持ってどっち?どっち?と聞いてくるマコとリセ。
どうやら平良らしからぬテレビを観ていたのは妹たちの影響。
彼は寝てしまって知らないからここぞとばかりにささらに聞いてきた。
教えると嬉しそうにみかんを持って去っていく。

「お兄ちゃん元気かな」
「は?」

何だか無性に兄に甘えたくなった。


つづく

2007/06/19

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