争奪?


「あ。先輩。こんにちは!」
「こんにちは。早いね高宮君…じゃなかった、元気」
「早く追いつきたくて。部屋じゃちゃんと練習できないし」

ささらがガレージにやってくると既に高宮の姿。
まだ兄も他のメンバーも来ていないのに。1人で練習。
彼の邪魔をしないようにソファに座った。

「あっ。もしかして居ない方がいい?」

でも練習をやめてジッと此方を見つめている高宮。
もしかして自分が居ると集中出来ないだろうか。
気が利かないなと立ち上がるささら。

「先輩と2人きりなのがうれしくて。つい」

はにかんだ笑みが可愛らしい。他の男たち同様にやらしいのを除けば
向上心があって何事にも一生懸命な少年。純粋さも残っている。本当に、
変な性癖さえなければ。ささらは頭の中でグルグル考えてばかりだ。

「そっか。よし!頑張って打倒平良君だ!」
「そ、それは」
「何事も強気で行かなきゃ」
「よし。もっと頑張って平良さんにか、…勝てる訳ないじゃないですか!」
「悩まないで!ごめん嘘!冗談だから!」

そんな声が出るのかと思うくらい低い声で呻きながらしゃがみこむ高宮。
やはり彼にとって平良はエベレスト級に高い目標らしい。
落ち込む彼の頭を撫でてやってご機嫌を取るとやっと立ち上がった。

「…先輩の事では、負けません。誰にも」
「強気だ」
「はい」

おどおどしながらもささらを抱き寄せてキスする。
まだ不慣れな所が彼らしいがそれはお互いさま。
可愛いなと思う所。
キスでやる気になった高宮はまた練習を再開した。


「アレさえなければな」
「何のお話かな」
「あ。かなめさん」

ソファに座ってそんな呟きをしていたら次にガレージに来た二色。
隣に座るとささらの肩を抱いて耳元で甘い囁き。
どうかもう少し離れてください。恥かしい。なにより、
高宮の後だとこの女性に対し慣れ切った感じが嫌になるから。

「ご主人様」
「はい?」

素で聞き返す。なんで私がご主人様?
貴方メイドなんてしてましたっけ。いや、コスプレは健太郎だ。
そもそもメイドじゃなくて執事か。そんな事考えてる場合じゃない。

「どうして?君もけっこう乗り気だったじゃない」
「乗り気…」
「セクシーな格好して俺に乗ってくれて尚且つ」
「もう結構ですそれ以上言ったら二色さん絶交」

あの悪夢。忘れたかった。なかった事にしたかった。
ささらは迫ってくる二色の顔を手で押し返しそっぽを向く。
恥かしくてもう何度メソメソと泣いたことか。ボンデージ。

「困るな。あ。でもそうなったら皆に君との素敵な夜自慢してやろ」
「酷いです」
「酷いのは君でしょ?ね。…またやろうよ」
「い、いやですっ」
「君も気に入ってたんでしょ?今まで見たことないくらい恍惚の顔して」
「してません!」

腰の砕けるような甘い声でささらを誘惑する。
と、彼女は物凄い勢いでガレージから逃げ去った。
そこへ入れ違いに諒太郎が入ってきて。
何事かと尋ねるが二色は知らぬフリを通した。



「冗談じゃないよ。私はそんな趣味一切ないのに!」
「なに荒れてるの」
「皆変態。変態撲滅!」
「モカで酔う真似はやめなさい」

翌日。放課後エリとそして理沙を誘ってスタバにやってきたささら。
何時も注文するモカを飲みながら居酒屋のおっさんのようにクダを巻く。
この前酔っ払って思う存分愚痴ってからそれが癖になったのか。
でもまだ酔っ払ってはいないはずだが。エリはため息をして肩を叩く。

「酔っ払ったこんな感じになるの?うわ。可愛い」
「あのねえ」

間違った方向に萌えている理沙。
唯一の突込みであるエリはだんだん面倒になってきた。

「理沙さん私の気持ち分かってくれる?」
「わかる!分かるとも!」
「テメエにゃわかんねーだろーが!」

もう勝手にしてくれ。エリは放棄して景色を眺める事にした。
お隣では理沙とささらのかみ合ってないけど繋がっている妙な会話。
兄好きの妹という共通点があるためか波長だけは合うらしい。
疲れきったエリと楽しげな理沙と別れささらはその足で二色宅へ。


「どうしても会いたくなってしまう」

目当ては白い子犬。可愛い。あまりにも可愛い過ぎる。
罪な存在。どんなに恐怖で近寄りたくない部屋でも、
そこに激烈に好きなものがあればその誘惑にまけてしまう。

「俺にならいいのにな」
「ねえ、一緒にすもうよ白雪君」

抱き上げて白雪の顔を見つめる。
潤んだつぶらな瞳が愛しい。連れて帰りたい。

「いいよ」
「えっと。そちらは結構です」
「ひどい」
「白雪君はどうしてそんなに可愛いの?」

ささらに触れたくても手が出せない二色。
何せ邪魔をしたら凄い剣幕で怒られてキスもしてくれない。
そんなに白雪が気に入ったのかと拗ねても無視されてしまう。
それくらいこの犬にご執心なのだ。
その日もささらは散々白雪とだけ遊んで家に帰って行った。


「散々な扱いだな。惨めなほどに」
「だろ」

その週の日曜日。やっとささらとのデートを組めたと思った二色だったが
彼女の狙いは自分ではなくて同居している白い小さなフワフワだった。
おまけに諒太郎まで連れてきて。これで寂しくないでしょう?ときた。

「けどなんで俺なんだ。ああ、鼻がむずむずするぜ」
「お前の事嫌いなんじゃない?」
「そんな訳ないだろ」

公園で白雪を遊ばせているささら。そんな彼女を遠めに見つめる男2人。
何て変な光景だろうと自分たちでも思う。二色は2人で歩きたいのに。
犬だけでもむかつくのになんで更にムカつく男が居るのか。

「白雪に恋人を作らせたらどうだろう」
「メスの犬を飼うのか」
「そうそう」
「ささらはその雌犬も好きになると思うぜ」
「やっぱり?」

性別関係なく見た目が可愛い好みであった場合彼女はぞっこんになる。
アレルギーで鼻をむずむずさせている諒太郎は諦めの境地。
二色はまだ諦めたくなくて様子を伺っているが。ささらは幸せそうだ。

「見て見て!白雪君のお洋服!私もこれとそっくりなの持ってるから御そろいなの!」
「つか、犬に服っているのか?邪魔じゃないのか?」
「……お、…お兄ちゃんの馬鹿!」
「えええええ!?」

せっかく駆け寄ってきたささらだが諒太郎のごもっともな意見に
拗ねた顔をして白雪を連れて去ってしまった。
二色は馬鹿だなと思ったが何も言わずにささらを追いかける。
ささらに馬鹿と言われて石化している諒太郎は放置して。

「さ、白雪君一緒に歩こうね。最近ちょっとプクってしてきてるし」
「服似合ってる。ありがとう、今度お揃いでデートしようか」
「はい!」

さすが二色。ささらの好む言葉を選んで一歩リード。彼女の照れ笑いが
そのまま抱きしめてベッドへなだれ込みたいくらい可愛い。
でもそれはせっかく外に出たのにと怒られて危険行為なのでここは我慢。
何だかんだと文句をつけて諒太郎も後ろから急いでついてきた。

「白雪にぜーんぶとられるお前の気持ちよくわかるぜ」
「だろう。一時は処分してやろうかとも思ったんだけどね」
「鬼だなお前」
「だってつまらないんだもん」
「だもんって言うな」

また遠巻きにささらと犬の戯れを眺める2人。
それはそれで可愛いのだがやはり自分と遊んで欲しいし、
白雪に向ける笑顔を此方に向けてほしいと思う。しばらく公園で遊んでいると
ちょこちょことささらが白雪を抱いて戻ってきた。

「どした」
「…おなかすいた」

二色に言うのは申し訳ないと思ったのか兄の服を引っ張っておねだり。
それでもちょっと申し訳なさそうに言うのが可愛らしい。

「何が食いたい?」
「あまーいもの食べたい」
「よし。どっ」
「白雪もいける場所へ案内しよう」

諒太郎が考える間もなく割って入る二色。
だいたい今日は自分とのデート。諒太郎が居る事自体不快でならないのに。
ささらの手を引いてさっさと歩き出す二色を慌てて追いかけて、
そして顔をのぞかせた白雪でくしゃみ。今日はとことん可愛そうな兄である。


「ちょっと待っててね」

建物に到着するなりささらはトイレへ向かった。
彼女が居なくなって白雪は少し寂しそうな顔。
海の見える絶景のテラスは犬も入れてちゃんと食事もできる。
情報に詳しい健太郎を使って調べさせた穴場だ。

「生意気な犬だぜほんと」
「お揃いなんておこがましいんだよ」

彼女が居ないのをいい事に席につくなり白雪に文句を言う男たち。
白雪もまた負けじと歯を見せて睨みつけてきた。

「チビ犬の癖に威嚇してきやがって」
「気をつけて。噛まれるよ。この先ささらちゃんを可愛がりたいなら近づかないのが無難だ」
「な、なんて男つぶし!」

きゅ、と股間を隠す諒太郎。
そんな事をしている間に店員が注文を聞きに来た。

「ご注文は」
「ああ、まだきてな」
「ねえ、人間の食べるものを犬に食べさせたらどうなるのかなぁ」
「犬は人よりも内臓が小さいですし消化機能もよくないのでお控えください」
「どうもありがとうお姉さん」

甘い声と微笑みで店員は注文も聞かないで戻っていった。
なんの気もないくせに意味深な事をして人の心を掻き乱す。
諒太郎はメニューをテーブルに置いて隣の男を睨む。

「マジいやな男だな、おまえ」
「そうかな」
「何がいやなんですか?」
「君が1秒でも離れているのが嫌だ、といったんだ」
「私も、…白雪君とはなれたくなかったよー!!」

白雪を抱っこするささら。やはりそう来たか。にこやかに笑う2人だが、
二色は明日から白雪のご飯は肉にしてやろうと画策し。
諒太郎も遊びに行くたびに肉をやろうと決心した。
二色の部屋に帰る間もずっとこの調子。まともに手も繋げなかった。


「拗ねたお兄ちゃんも可愛い」
「あのな」

戻るなり白雪の足を拭いてあげたりして構ってくれないささら。
高級そうなソファに座ってふて腐れている諒太郎。
その隣に座ってささらは笑う。こちらは笑い事じゃないのに。

「何ですか?」
「俺の事嫌いか?」
「どうして?」
「いや。何となく」

何でここに呼ばれたのか未だに理解できない。
鼻はまだちょっとむずむずするし。白雪を紹介したかっただけ?
諒太郎の言葉にちょっと驚いた顔をしたささらだがすぐに気を取り直し。

「今日は、白雪君と遊びたかったの」
「みたいだな」
「そうなると。その、二色さんの相手が居るじゃない?」
「まさか兄ちゃんにアイツの相手しろと…?お前そんな」

拷問みたいな事、さすがに聞けないよ。無理だよ。

「そ、そうじゃなくって」
「俺と諒太郎なら2人で襲ったりしないからでしょ」
「あ。二色さん」

さりげなくささらの隣に座る二色。彼は最初から察していたらしい。
二色の相手よりも白雪と遊びたいささら。
だけどその間彼を1人にすると怒られるし後が怖い。という事で
彼の話相手を考えた。それも協力プレイなんてしないような相手。

「なるほどね」
「えへへ…じゃあ、お夕飯の準備しますね」
「うん」
「いいよなあ。お前毎回ささらに夕飯つくってもらって」
「かなめさんは作ってくれる人がいないから」
「馬鹿だなあ、いるにきまってんじゃん」
「え」

諒太郎の言葉にささらが驚いた顔をして振り返る。
余計な事を言う男を見えないところで盛大に殴る二色。

「いないよ、いつもコンビニさ」
「そういえばゴミとかないし、綺麗に掃除されてるし、白雪君のおトイレも毎回綺麗になってるし」
「それくらいは自分でするさ」
「もしかして、私勝手なこと」

男性の1人暮らしは大変だろうと勝手に勘違いして。
でもお金持ちの彼だ。そんなだらしのない生活はしないか。
今更気づいて恥かしそうにしているささら。

「…違うって、ねえ、…そんな顔しないで、おねがい」
「大丈夫です。お料理、今日は頑張って覚えたレシピなんですからね」
「俺の為に?」
「だって、いつも味気ないものばかりで」

心配して様子を見に来た二色だが彼女は笑顔を見せて
夕飯の準備に取り掛かる。気にしているだろうに。
そんな健気な事をされると邪な考えが沸き立ってくるから困る。

「嬉しい、君ってやっぱりいい奥さんになるね。ああ、俺の」
「気が早いですよ」
「ささらちゃんがいけないんだよ、俺をその気にさせるから」

熱っぽい瞳でささらを抱きしめると頬にキス。
ささらは抵抗する様子はなくされるがまま。

「頬かじっちゃいや…」
「じゃあ、舐めていい?」
「んん…お料理が…できないよぉ」
「俺に料理されなさい」
「あぁ…」

唐突に始まったメロドラマ。
広くて綺麗な台所でやらしいプレイをしそうになっているのを
諒太郎が指をくわえてみているわけがない。

「俺のささらにさわるんじゃねえ!」

二色を引き離すと盛大に蹴りを入れた。

「テメエ!邪魔すんな!帰れ!」
「ふざけんな!ささら命みたいな顔して何人の女騙してんだか!」
「僻みか?お前みたいにがっついちゃいなんでね!!」
「俺だってささらの事だけ考えてるよ!」
「はっ、そのツラで?整形を先に考えな!」

殴り合いの喧嘩が始まるキッチン。
危ないですからと隅によってもらって調理開始。
数分後、チーンという音と共にささらの呼び声が。

「はーい。お夕飯ができましたよ♪」
「「はーい!」」
「よい子は手を洗ってきましょうね♪」
「「はーい!」」

喧嘩よりもささらの食事。2人は先ほどまでの喧騒が嘘のように大人しい。
今日の献立はビーフシチューとオニオンスープと野菜にパン。
ささらの愛情がこもったメニューだ。ちゃんとナプキンをつけてもらって。

「さ。白雪君もたべましょうね、ナプキンしましたね」
「わん!」

ささらはちゃんと知っているらしく犬用の味の薄いメニュー。
皆席に座って。

「では、いただきます」
「「いただきまーす!」」

美味しい。でも何よりささらが前で食べて居るのがいい。
目があうと微笑んでくれて。「美味しい?」ときいてくる。
無論「美味しい」と答えるとうれしそうに笑う。
ささらと2人きりの新婚生活。素敵だろうな。
ソファに座った諒太郎と二色はとってもエロい想像に胸を躍らせていた。

「片付けおわりまし…」

何か知らないが2人遠くを見つめながらニヤニヤしている。
その手は必死に股間を押さえ。此方に気づくと意味深な手招き。

「お前の存在は気に入らないがここは1つ提携といこう」
「俺もお前がボーカルじゃなかったらその頭かちわってるが、いいだろう」

よし。とお互い何か契約が結ばれたらしい。
ささらにとって非常にまずいものが。

「い、いや」
「嫌じゃないよ、すぐ、よくしてあげるよ」
「ささら、兄ちゃんは大丈夫だよ」
「…し、白雪くぅん」

さっきまでいい感じだったのに。後はもう白雪に挨拶して帰るだけなのに。
何でこんなに追い詰められるんだ。怖い。誰か助けて。



「うわーーん!」

その後。3人川の字になってベッドに寝転ぶ。
もちろん真ん中にささら。酷い目にあった。
両サイドでは達成感に溢れる顔の男たち。

「選ばれるのは1人って惨いよな」
「そうだね」
「その1人になったら、さぞかし幸せなんだろうな」
「まったくだ」
「…その前に私を労わって」

妙に爽やかな会話しないで。まず泣かさないで。普通に接して。
そんな話をしている間に3人眠ってしまったらしい。どれほど深い眠りか。
誰も時計を見る事は出来なかった。

「ん…ささら」
「……ささら…ちゃん」

だが諒太郎と二色は何かの気配に目が覚めた。
そしてお互いに手を伸ばし愛しいささらを抱きしめようとまさぐる。
ちょっとゴツイような気がしたけどたぶん気のせいだ。愛しいささら。

「朝から元気だなぁ」

当の本人はさっさと起きて白雪の朝の散歩に行きついでに買い物をして
ただいま台所で朝食の準備をしていた。そこへドタドタと
廊下を走ってくる音がして起きたのだろうと察したが。

「うわあ」
「くっ」
「な、なに!?どうしたの!?何で裸!?」

ドアを開けて入って来たのは裸の兄と二色という凄い映像。

「いいよ、なんでもない」
「うん。わるい夢を見たんだ」
「何かよく分からないけど、早く服を着て」

ささらは視線を外し呆れ気味に言った。悪い夢を見たからって
裸のまま来ないで欲しい。それも2人揃ってなんて。
どっちかと新婚生活を送るとしたらこんなふうに騒がしいのだろうか。
なんていやな想像をしてしまう。

「あれ。お前」
「こっち見るな」
「まさかささらちゃんに見せて喜んでるとか?うわ。キモ!」
「ンなわけねえだろ!」
「やめとけそんなお粗末なもん」
「…この野朗」
「お願いだから廊下で喧嘩しないで!さっさと服を着て!」


つづく


2007/06/19

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