少女の悲劇


平良賢児があの片倉ささらを狙っている。或いは既に交際中。
当初はよくあるデマだと思われていた。けれど楽しげに話していたり
昼食を一緒に食べている所を頻繁に見られている。
これは本当の話なのかもしれない。男子も女子も注目している2人。

「平良君は無愛想な所あるけどカッコイイよね」
「成績もいいし、スポーツも出来るし」
「でも相手がアレじゃねえ」

最近少し痩せたもののやっぱり標準サイズには少し遠い容姿。
成績はまあまあ。スポーツは最悪。以前よりは明るくなったが、
ほとんどの女子は「何で?」と冷ややかな目線だ。


「たいらっち足はやーい」
「そうだね」

体育の時間。エリに言われて走っている平良をチラっと見た。
噂には疎いが周りが自分と平良をそういう目で見ているのはわかる。
エリが教えてくれなくても何人かに聞かれたからだ。
彼とはどういう関係か。中には脅すような人も居たけれど。

「友達です」

だれに聞かれてもささらはそう答えた。平良は怒るかもしれないけど。
言い方が分からなくて。どう説明したらいいのだろうかと。
恋人ではまだないしかといってただのクラスメイトでもない。
キスまでしといて友達はないだろうと自分でも思うけど。恥かしくて。

「なあ、お前片倉とどこまでいってんだよ」
「え、エッチしたのかよ」
「どうだよ」

一方の平良にもささらの事で話しかけて来る奴が増えた。
走り終えて木陰で休んでいると大して仲よくない奴が寄ってきて興味本位で聞く。
そういう奴らは無視。平良は見向きもせず返事もしない。最近ではささらに興味を
もつ奴が増えて腹が立つ。彼女のよさに気づいたのは自分なのに。

「あの子巨乳じゃん。いい感じだよな」
「なあ」
「そんなに巨乳が好きなら大沢でも誘え」

適当にあしらった所で終了のチャイムがなる。
気だるく着替えを済ませ教室に戻った。ささらと話をしたいけれど
話しをするたびに周囲がチラチラみて。彼女も気を使ってしまう。
人の恋路だ、ほっといてくれればいいのに。ムカツク平良。

「平良君」
「あぁ」

放課後。教室を出てすぐの廊下、ささらと出くわす。
まさかこんなタイミングよく出会うなんて。
もしかして会いに来てくれたのだろうか。何て思う。

「あ、あのね。今日よかったら…一緒に帰ろう」
「ああ。今誘う所だったんだ」
「よかった」

やっぱり。予想的中で心の中でガッツポーズ。

「…なあ」
「ん?」
「お前…可愛い」

少し前までは誘いに行っても何しにきたの?とか不思議そうな顔したのに。
今ではこうして自分を誘いに来るまでになったささら。なんて愛くるしい。
諒太郎が日ごろ馬鹿みたいに妹を可愛い可愛い言う意味が少し分かる。
彼女は突然の言葉に頬を赤らめて照れているようだった。

「何だよお前ら、こんな所でイチャつくなよな」
「ほんと、こまるんだよね」
「バカップルー」
「うっせえな」
「……」

そんな2人の様子を遠巻きに見ていた他所のクラスの男子がからかいにきた。
ささらは物凄く気まずそうにしている。このまま帰ってしまいそうなくらい。

「なあ、マジいい体してるよな」
「平良に触らしたの?じゃあ俺らもさ」
「ちょっとだけでいいから触らしてよ」

意味の分からない事を言われいきなり抱きつかれて。
ささらは悲鳴をあげた。そして男子を振り切って逃げる。
その表情は涙を浮かべているように見えた。
平良は容赦なく拳を男子に振りかざす。

「ってえ、いきなり殴るなんて」
「覚悟できてんだろ、なあ」
「うわあ!」
「逃げろ!」

平良に拳骨をもらいあっという間に逃げた。
追いかけてボコボコにしてやりたい所だがその前にささら。
走って追いかけて途中人に聞いて彼女を探した。

「片倉っ」
「いやあああ!」
「大丈夫、…じゃあ、…ねえよな」
「…うう」

ささらが逃げてきたのは屋上。やはり泣いているようだ。
あまり刺激を与えないように近づいてしゃがみこむ。
彼女は膝を抱えてギュッと身を小さくしている。

「片倉…」
「……」

しばし様子を見ていた平良だがそっと手を伸ばし。

「恐いか」
「……ううん」

優しくささらを抱きしめた。彼女は泣かなかった。
悲鳴もあげなかった。少しは落ち着いてくれたらしい。
平良はやっと少し安心できた。

「ささら」
「あ。私、あの、クラブに忘れ物しちゃった。行かなきゃ」
「俺も行く」
「で、でも」
「一緒に帰るって、言ったろ」
「……うん」

冷静になったら泣いているのも抱きしめられているのも恥ずかしくなったらしい。
慌てて彼から離れると部室へ向かう。クラブの家庭科室は人気がない。
もう今日は部活は終わってしまったらしい。

「へえ、ここ畳なんだな」
「うん。ここで会議したり作ったものを食べたりするの」
「悪くねえな」
「あった。これを…」

普段は入らないような個室。こじんまりしていてまるで家みたいだ。
ささらが棚に置いてあった本を取った途端、
ガチャっと後ろから聞こえてきて。とても嫌な予感がした。

「なんだ?」
「ドアが」

ささらは青ざめた顔で確かめる。やはり鍵がかかってる。

「へっへっへ、ごゆっくりー!」
「あいつら」

笑い声と共に走り去る足音。
さっき平良に殴られた男子が鍵を閉めていったらしい。
蹴破るわけには行かなくて2人閉じ込められてしまった。

「…ひどい」
「出たら半殺し」
「……」

平良はムカついているがささらはまた悲しそうな顔をして俯く。
意地悪をされるのは慣れているはずなのに、
やはり心ない事を言われたりされたりするのは辛い。毎度傷つく。

「泣くな」
「私なんかが平良君と仲いいのがいけないのかな…みんな面白がってる」
「興味本位だろ」
「私が普通の女の子なら」

エリのような可愛くてスリムな子だったら誰も何も言わなかったに違いない。
こんな不釣合いな子が仲良くしているなんて、笑いものなんだ。
平良に申し訳なくて悲しくてささらはギュッとスカートを握った。

「ばか」
「平良君」
「暫くしたら誰か見回りに来るだろ」
「うん」

平良にクシャっと頭をなでられて笑いあった。
見回りが来るまで座って待つ事にする。といっても何時来るかは分からない。
とりあえず何か料理の本でも眺めて時間を潰すことにしよう。
平良は興味なさげに机に肘をついて頬杖をついている。視線の先はささら。

「なあ」
「ん?あ。これ美味しそうだね」
「お前ってさ、…たぶん、…セックスしたことないよな」
「……えっ…え?え?え?え?」

実にあっさりと物凄いことを聞いてくれる。
ささらは視線を料理雑誌に向けたまま答えてていたのだが
驚きのあまりそのまま固まってしまった。
何でそんな事を今ここで言うのだろうか。閉じ込められてるのに。

「だよな」

顔を赤らめオロオロするという分かりやすいリアクションに頷く平良。
何でそんな冷静で居られるのだろう。今凄い会話してるよね?
とささらは言いたくても言葉が出ない。怖くて。
珍しく今の時点で既に身の危険をジワジワ感じている。

「た、…た、平良君は中華と和食どっちが好き?」
「あ?お前」
「お、おまっ…中華と和食って選択肢なんだけど」

必死に話しを逸らそうとするささらだが平良の視線はずっとささら。
不味い。絶対にこれは不味い兆候だ。何かされる。
エリか兄にメールして助けを呼びたいけれどカバンは平良の後ろ。

「……」
「あ、あの。そうだよ。け、携帯で、携帯で連絡!助け呼ぼうよ!」
「あいつ、お前の胸触ったよな」
「え?」
「さっき。触ったよな」
「わ、分からない。…行き成りで、覚えてない」

それより携帯で助けを呼ぼうよという案はどうなったんだろう。
何となく、無視の却下をされているような気がしないでもない。
助かりたくないのだろうか。それとも先生が来るまで待つ気?
ささらは必死にこの場を凌ごうと本に集中するけれど。

「気安く触んなよな」
「ちょ。ちょっと…!」

行き成り机を蹴って端っこへ飛ばしたかと思えばささらを床に押し倒す。
待ってこれは流石に不味い。本当になんかもう叫ぶしかないかもしれない。
また泣きそうになっているささら。平良はマジな顔のまま上から見つめている。

「あのね!そう言えば最近パンつくったの!」
「……」
「でもイースト菌いれなきゃいけないのに忘れちゃって」
「……」
「膨らまないなあってみんなで喋っててー!」

自分でも驚くほどにハイテンションで必死に喋るささら。
でも平良は何の反応もしてくれないくてジッと見つめてきて。
話が終わってないのにささらの首筋にキスする。
そして手はあらぬ場所へ。

「いやー!まって!ほんとに!あの!」
「煩い」
「いや!や!やだ!」

こんな所でそんな事できない。怖い。やばい。泣きそう。漏らす。
色んな事が頭の中を走り回ってささらはパニック。
必死に押し返そうとするのだが平良の力は強くびくともしない。

「もう既成事実つくっちまおう」
「あ、あの」
「ん」
「何…するの。こ、ここは料理を研究する場所で」

完璧なまでに無視する平良。そしてかちゃとズボンのベルトが緩む音。
上着を脱ぐと合宿でも見たけれど、やっぱりいい体してる平良君。
何て悠長なことを考えている場合ではない。ピンチだ。

「電話待つつもりだったけど、ま、いいか」
「えええぇ…せめて体操服着ようよ」
「着てるのがお好みか?」
「うん!着て!今すぐ着て!」
「ん」

好でもお好みでも何でもいい。そのまま全裸とか絶対に無理。
少しだけ安心したのもつかの間。

「さ。脱げ」
「…え」

すごいご命令。

「恥ずかしいなら俺が脱がしてやる」

いや、それも無理。

「あ、や」
「俺じゃ不満か」
「そうじゃないけど」
「じゃあ」

制服に手がかかる。まだ恐いが、平良の目があまりに真剣で。
異性とのこんな密着している所為か
変な気分になっているというのもあるかもしれない。
覚悟を決めたささらだったがその時外から靴音がした。

「センセーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「ん?誰かいるのか」
「センセーーーーー!」

ささらの絶叫により気づいてもらうことが出来た。
平良は制服を着なおし2人はやっと解放された。
ささらは外の空気の美味ささに感動する。

「惜しかったな」
「聞いていい?」


夕方の道を帰る。騒ぎまわったせいでささらはもうへとへとだ。
流石にそんな疲れきった彼女をどうこうしようとは思わないらしい。
大人しくついてくる平良。だが呟いた言葉は恐ろしい。

「ん」
「あのまま、やっぱり、その」

致そうと思ってたんですか?とは恥かしくて言えなかった。
でも彼は察したようで少しだけ微笑む。優しげな笑み。

「今度は逃がさねえ」

に見えたけど一瞬にして悪魔の笑みに変わった。

「……うう」

ささらは逃げ切る自信があんまりなかったりする。
今でもまだ少しドキドキしているし、密着した所為か仄かに
平良の匂いがついている気がして。恥かしい。

「この前の分と合わせてそりゃもう、お前の敏感そうな○○○を
俺の×××にどっぷりと△△△して後は記念にバック」
「ひあああああああ!」

平良は怖い。優しいけど怖い。そしてえっちだ。ささらは叫びながら走って帰った。
この時の事を振り返って「我ながらよく耐えた」とささらはエリに語っている。
平良は「あいつにしては俊敏だった」と語った。



「また閉じ込められてみようか」
「やだ!」

つづく


2007/06/19

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