はじめてのデート


「…だいたいこんなもんか」

平良の部屋。型をつくり自分のミシンを前に柄にもなく顔が赤くなる。
花火大会のとき服をつくってやると言って何気に体を満遍なく触った。
いい感触だった。柔らかくて弾力があって。仄かにいい香り。
抱いたらさぞかし感度がよろしいだろう。
なんて不謹慎にも反応してしまった男の性がむなしいばかりだ。
あれからささらは高宮の所へいってしまったが寧ろその方がよかった。

「布…」

別に既製品をアレンジする自信はあるがそれじゃ何時も彼女が着ている服と
なんらかわない。どうせならもっと可愛く女の子っぽくしてあげたい。
なんて硬派をきどっていた自分らしからぬファンシーな考えである。


「おお、賢児、買い物か」
「ああ」

家を出てよく行く古着屋へ向かう。店は爺さんの楽器屋と同じ通りにある。
店の前に出るとちょうど看板を出していた爺さんとばったりあって。
この時点でなんとなく嫌な予感がしていた平良。

「じゃ、帰りにエロ本たのむわ。いつもの」
「自分で買いに行け」
「ジジイは店番があるんじゃいバイトがいないからよ」
「閉めてけよ」

やっぱり。未成年にエロ本なんか買いに行かせるな。
何て自分が言ってもあまり効力がないだろうし、
それでひっこむ爺でもない。根っからの問題爺だから。

「あほう。この歳でシャッターあけんのどれだけしんどいかわかるか」
「じゃやめろ」
「ワシの命の源を絶つ気か」
「大いに断ち切れ」

早く店に行きたいのに引き止める爺が鬱陶しい。
いっそ無視して行ってやろうかとも思うけれど。
それはそれで後から煩いから困る。

「じゃあささらちゃん連れて来い」
「はあ?」
「あの子のプニプニしたホッペをちゅうっとな…」

ふざけた事をのたまう爺には蹴りをお見舞い。容赦はしない。

「ざけんなエロジジイ!」
「本気で蹴り上げる奴がおるか!」
「うるさい俺は忙しいんだ。親父にでも頼め」
「お小遣いやろうとおもったのに。それでささらちゃんをデートに誘えるのに。
お前はバイト代を楽器につぎ込むからのう。ちゃんとしたデートにも誘えんで
どうやって付き合うんじゃろうなーなーなー」

わざとらしい言い方。
何時もなら無視を決め込むが気になるキーワード満載だった。
渋々立ち止まり爺の下へ戻る平良。そしてそっと手を出す。

「…金よこせ」
「おーおーその気になってくれたかい、孫よ」
「……」
「まじで惚れたのか。意外にウブじゃのー」

からかうクソ爺には拳骨をお見舞い。容赦?そんな言葉知らない。

「金ふってこねーかな…」
「きゅ、救急車よんどくれ…」

お小遣いも爺さんの手伝いで貰った金も全部ベースに費やしている。
残っても古着代とかライブ代などで簡単に消えていく。それでいいと、
それこそが最高の使い方だと思っていた頃が懐かしい。
いや、今でも変わらない。ただ、その最高の使い方に1つ
「ささらとデート」というカテゴリが増えただけ。未だ誘えてないけど。

「なんだやけにフリフリしたの選ぶね。お前そういう趣味」
「ぶっ殺すぞ」
「…なわけないか」

なじみの古着屋はベース仲間の家でもあった。同じくらいの年齢の少年が
からかい半分にありえない服ばかり選ぶ平良にちょっかいをだす。

「なあ、お前さ月いくら貰ってんだよ」
「店番で月3万かな」
「大してよくねえな」
「ここの息子だぜ、んな普通に出すバカな親いるかよ」
「だな」

どこも似たようなものか。
大金が入る仕事なんてたいていヤバいもんだ。
かかわらないほうがいい。

「何だよ、また欲しいベースでも出会っちまったか」
「まあな」
「どんなだ?お前の御眼鏡にかなうベースったらそりゃもうすげーんだろ」
「すげーよ、今3人と取り合いしてんだ」
「さ、3人!お前早く金溜めて買いにいかねえとやべーぞ」
「ああ。だからさ、金貸」
「やだ!」

仕方無しに古着を買って家に戻る。途中本屋で爺さん所望のエロ本を購入。
いい年をしてなにをみているのか。

「あれ。平良君」
「あ、ああ、岡部」
「ささら、平良君いるよー」

何でこんなタイミングで。

「悪いな、俺これから用事あるんだ」
「そう。じゃね」
「ああ」

ささらにだけはみられたくない。
袋にエロ本とピンクのフリフリなんかもった自分なんか。
だから、慌てて逃げるようにその場から離れた。

「平良君は?」
「それがね、何か忙しそうに帰っちゃった」
「そっか」
「でも、あの平良君がねえ」
「なに?」
「袋にエロ本はいってたわ」
「ええぇ?」

平良の健闘空しく慧眼なエリによってカバンのエロ本はバレていた。
顔の赤くなるささら。

「でも、それが普通でしょ?高校生にもなって抜かない男なんて」
「ぬ、ぬく?」
「そうそう。溜まると体に悪いらしいし」
「男の人って、体に何か溜まって、抜かないと爆発するの!?」
「そうよ。爆発するのよ」
「お兄ちゃん大丈夫かな。それにはエロ本っていうのがいるんでしょ」
「大丈夫!あんたの兄ちゃんは毎晩抜いてるわよ!」
「そ、そうなの。よかった」
「エロ本なんかよりもよっぽどいいモノが目の前ちょろちょろしてんだから」
「ちょろちょろ?」

さて。どんな風にしようか。エロ本と一緒に女性雑誌なんかも買って研究する。
こんな女々しい事は絶対にしない自分だったのに、と何度も苦笑して。
それでも1度決めたらトコトン追求するのが平良である。抜かりは無い。

「あいつは可愛いから大人っぽいのよりは…そうだ、こういう系がいいな」

でもって、爺さんからもらったお小遣いでデートに誘う。
この服を着てくれと頼めば優しいささらだきっと着てくれる。

「…何か、…悪くないかも」

想像しながらミシンを引く姿はどこからみても恋する乙女さながらである。



「ただいま」
「おかえり」
「ねえ、お母さん」
「なーに」
「お父さんは元気?ちゃんと毎晩抜いてる?」
「さ、ささらーーーーー!!!!」

母の絶叫はガレージで練習していたメンバーにも届いた。

「何で?私そんな変なこといったの???」

説教される事30分。夕飯時とあってようやく母親から解放された。
母は意味を知っているらしく顔が随時真っ赤だった。
ささらは意味がわからず首を捻るばかり。心配しているのに。

「何怒られてたんだ」
「うん…」
「いってごらん、何なら兄ちゃんが抗議してやる」

そこへガレージから戻ってきた諒太郎。
ささらがそんな怒られるような事をするわけが無い。
何かの間違いだ。

「いいの、なんだかお母さんの話だと私が悪いみたい」
「ささらが悪いこと言うわけないだろ。で、何をいったんだ」
「お父さんは元気?毎晩抜いてる?って」

ささらの言葉に固まる諒太郎。
当の本人は兄の様子を見てまた首をかしげる。
やはり何か変な事を言ってしまったらしい。
もしかしてエリの言葉を間違って覚えているのか?

「お、お前…それを母さんにそれいったのか」
「だって!男の人は抜かないと溜まって爆発するって!」
「岡部だな。岡部の悪魔がそういったんだな」
「エロ本っていう専用の本があって、それさえあればいいんだって…」
「忘れろ」
「高校生なら普通だって…」
「いいから、忘れるんだ」
「お兄ちゃんは毎日抜いてるって」

確かに男にはそういう部分もあるけれど、
そんなえげつない部分をささらにいう事はないだろう。
ついでに言うと毎日は抜いてない。

「岡部さんの電話番号、教えてくれないか」
「エロ本よりもずっといいモノがちょろちょろしてるって。
あのね…お兄ちゃんうちはペット禁止だよ?」
「いいから、教えてくれ…たのむ」

あの野朗。文句言ってやる。

「はいはーい。あ。諒太郎お兄ちゃん』
「テメエささらに何ふきこみやがった」
『あれ。もうバレたか』
おかげで俺は毎晩ペットで抜いてる変態兄貴だ!」
『強ち間違いじゃないじゃん』
「どこが!」
『…ささらの寝顔とか、裸とか想像して抜いてんでしょ』

ギク。なんで分かったんだろう。じゃない。
こいつのペースに乗せられてはいけない。
諒太郎は気持ちを落ち着かせる。

「な、なわけないだろ!」
「兄ちゃん無理しなくていいからさ。自分に素直になりなよ」
「お前ってホント可愛げねー!英太君がかわいそう!」

あざ笑うかのように続けるエリ。
ささらは天使のように優しいいい子なのに。
何で親友はこんなにも酷い性格をしているんだ。

「おほほほほーいいのかしら?そんなこといって」
「な、なんだよ」
「知ってるんだから。純粋なささらをだまして色々させてること」
「う」
「メンバーに言ったらどうなるかなー」
「う」
「この前はこうするのが普通なんだよ、なんて言って服脱がせたんだって?
その前には化粧を手伝ってやるとかいってやたらホッペに触れたとかー」
「そ、それくらいでいいじゃないか…」
「私に文句言う前に自分のしたことちゃーんとささらに説明してね。お・に・い・さ・ま」

完璧に墓穴のヤブヘビである。

「…悪魔だ…あの女は悪魔の化身だ」
「お兄ちゃん、夕飯だよー」
「ささら、お前は天使だよ」
「?」


夕方。

「あ。俺だけど」
『あれー?私平良君に番号教えたっけ』
「片倉さんに聞いた」
『そっか』
「…なあ、今でられるか」
『うん。少しなら』
「今ガレージの前にいるんだけど」
『え!?わかった!すぐいくね』

ささらがのんびり部屋でくつろいでいると突然電話。
知らない番号で一瞬戸惑ったが、ずっと鳴っているのでとりあえず出る。
相手は平良。彼女は知らないが散々懇願してやっと教えてもらった番号だ。
外に出ると確かに彼のバイクと彼の姿。

「前に言ったろ、服作ってやるって」
「あ。すっごーい!本当だったんだ」
「できねー事は最初からいわねえよ」
「そっか。ありがとう!」

袋を渡すと最初は分からない様子で眺めていたささらだが、
服を作るという約束は覚えていたようで
本当に作ってくれた平良に嬉しそうな笑みを見せた。

「金とかそんな他人行儀なもんはいらない」
「すごいね。平良君って何でもできるんだ」
「なあ」
「ん」
「明日デート、しないか」
「…で、デートっ」

行き成り誘われてささらは直ぐに顔を赤らめた。
もちろんデートなんて生まれて初めて。
兄となら何度か出かけたけど、それは気づく前。

「別に行ったからって付き合えっていってるんじゃない。
俺もお前と2人ででかけたいんだ。話しがしたい、そんだけ」
「あのね、約束聞いてくれる?」
「なんだ」
「夜6時までに家に帰るのと、…あ、…あんまり近づかないで」
「どれくらいなら近づいていい?」
「ふ、普通に歩くくらい。…ドキドキして緊張しちゃうから」
「わかった。じゃあ、明日迎えに行く。服、サイズあってるはずだから」
「…着てまってる」
「今言おうとおもったとこ。やっぱ、お前は…可愛いな」
「だ、だめ。近づいちゃだめ」
「わり。じゃな」
「うん」

帰っていく平良を見送って、ささらも家に戻る。

「だめ」
「お、お兄ちゃんっ!!」
「だめだ、平良とでかけるんだろ」
「…約束、したよね」
「……そう…だったな」
「じゃあ、いいよね?」
「…そうだな」
「あのね、平良君に服を作ってもらったの」
「へえ」
「明日着ていくんだ」
「……」
「…そんな顔しないで」
「ああ、大丈夫だよ。こんなことでへこたれてたらお前を勝ち取れない」

ささらとの約束。無意味に他の人とのお出かけを邪魔しない。断らない。
それが守れない場合、即刻候補から排除されてただの兄に戻る。


「どう?お母さん」
「派手ね」
「そうかな」
「何だかささらじゃないわ」
「変かな」
「変よ」
「ううー」

翌朝。さっそく平良に貰った服を着てみるが自信喪失気味。
服自体は今まさに流行っているものなのに。ささらの体型がそれをぶち壊しているような。
母の目は世間の目。フィルターがかかっていない分信頼性がある。

「可愛いよ」
「慰めはいいの」
「このまま行かせたくないくらい可愛い」
「…そうかな」
「そうだよ」
「よかった」

諒太郎は褒めてくれる。あまり信頼性はないけれど。
でも、正直悪い気はしていない。

「なあ、俺ともデートしてくれよ」
「約束守ってくれるなら」
「まもる」
「じゃいいよ」
「…そんときは、俺が買った服着てくれ」
「もう。わかりました」

インターフォンが鳴りドアを開けると普段とまったく変わらない格好の平良。
ささらをみて一瞬固まる。

「…よかった、サイズあったんだな」
「うん。すごいね、あれでわかったんだ」
「まな」

思ってたよりもずっと何倍も可愛いじゃないか。
ちょっと不味い事をしたかもしれないと一瞬ささらの家を見て、
すぐ戻してその場からでる。どうしても諒太郎の視線を感じてしまうから。

「あの子、ささらの彼氏かしら」
「ちがうよ」
「金髪だし、ちょっと不良そうだし。大丈夫かしら…」
「あいつはああ見えて真面目なやつだから心配するなよ」
「そう?でも、珍しいわよね。あのささらに男の友達なんて」
「他のやつ等は目が悪いんだよ」
「お兄ちゃんはホント、妹に弱いんだから」

好きすぎて時々閉じ込めたくなるくらい。
どこにも行かないようにして、自分だけのささらにしてしまいたいくらい。
こんな風にでかけるささらを目の前で見なければならない辛さをいま思い知っている。


「た、平良君が水族館!!!」
「何だよその顔」
「に、にあわない…」
「うるせー」
「魚すきなの?」
「まあな。作詞に行き詰ったりすると、結構行くかな」
「へえ」

ささらは絶対どっかのライブだと思っていた。
でも、ついたのは家族連れが多い水族館。驚きのあまり声がでた。
不機嫌そうな平良。それでも入場券をかって中へ。

「綺麗なフォルムだよな」
「うん。あんなに大きくても海の中じゃ悠々とおよげちゃうんだよね。
…へえ、人魚と間違えられたんだって」
「ふうん」

目の前にはジュゴン。可愛いとは思うけど、
ささらが想像するような人魚姫とは違う。

「ふふ、どうやって間違えるんだろう?イルカならまだわかるけど」
「滑らかで優雅に海の中泳いでたら俺だって間違えるさ」
「ふうん」
「なあ」
「ん」
「お前さ、裸で泳いだ事あんだろ」

さりげなく忘れたい過去を掘り返す平良。
ささらは他の人に聞かれていないかそれが心配。
もう忘れてくれていると思ったのに。

「ま、まだ覚えてたのっ!!」
「吹くなよ、きたねーな」
「だって!」
「忘れるわけねえだろ」

合宿中。みんなが寝静まった夜。1人海に出て何も纏わずに泳いだ。
最後にそれを告白してみんなを煩悩の底に突き落とす。
無論、平良もその1人。

「今思うと本当にバカだったなと」
「残念だったな…」
「え」
「こいつみたいにきっと、滑らかで優雅だったんだろうな…」
「た、平良君!もう…」
「もうすぐショーがあるんだってさ、行くか」
「うん」

何時から好きだったかなんてこの際どうでもいい。今、惚れているのだから。
この想いをどうにかして届けたくて。でも、この鈍い人魚姫は気がつかない。
意識はしてくれているが。

「ショー面白かったな」
「うん」
「腹へらないか」
「あ。あのね」
「ん」
「お弁当作ってきちゃったの。勝手に作ってゴメンネ、何か考えててくれたならひっこめるけど…」
「…考えるような奴にみえるか?」
「ふふ。じゃあ、どこか座れる場所さがそう」

いい天気。青空の下食べるお弁当はおいしい。
ついつい多く食べてしまう。

「何だよ」
「だって、何時もそんなに食べないから。無理してない?」
「腹へってんだよ、文句あるか」
「な、ないです」
「じゃあいいだろ」
「あ、あのね、デザートとかあったりして」
「…早く言えよ」

それでも少しだけ食べようと、ささらが剥いたというリンゴをたべて。
暖かい日差しと満腹感で平良はころんと木にもたれて。
ささらも隣に座っていたが寝転がった平良を見て注意する。

「食べてすぐ寝ると牛だよ」
「だったら丁度いい膝借りるぞ」
「えっ」

するりを向きをかえてささらの膝を枕にする。

「柔らかい…」
「肉です。すいませんね」
「いいよ、丁度いい」
「もう」
「…マジ、お前って」
「なに」

不意に顔を向ける。不思議そうな顔をしてこっちをみるささら。

「…サイコー」
「た、平良君、な、なんでいきなりっ」
「何だよ、高宮の時はありがとうってキスしたろ」
「それとこれとは」
「何が違うんだよ」
「…したほうがいいの?」
「じゃないと、…俺何するかわかんねえぞ」

ひぃ、とささらは顔を青くしたが仕方無しに手が平良の方へ。

「…ありがとう」

そう言ってそっとオデコにキスする。このいじらしさの残酷さといったら。
このままささらの首を掴んで地面に押し倒して服なんか剥いでそりゃもう。
何て嫌われる事必死な妄想がバシバシ浮かんでくるが、必死に堪えた。


「じゃあ、来週からは学校だけど、またな」
「うん」
「もうお前は他人じゃねえから、イジメられたら言えよ」
「平良君」

家の前。丁度時間は5時55分。ささらの手にはジュゴンのぬいぐるみがあった。
本当はもっともっと彼女と過ごしたいけど。そうはいかない。

「お前は強くなった。色々あったけどあの頃のお前じゃない」
「やっぱり平良君のおかげなのかなって思うの。あの時私を怒ってくれたから」
「…ちょっと、言いすぎてたな」
「ううん。事実だもん。これからも言ってね」
「どうかな。臆病になっちまった、お前に嫌われたくないから…」

照れ笑いしているのか視線をそらす平良。
ささらを意識してささらに好かれたいと思うようになって。
そうするとやはり二色や諒太郎のように優しい言葉を選びがちになる。
思っていたことはちゃんと言う派だったのに。可笑しなものだ。恋というのは。

「私のせいで本来の平良君じゃなくなっちゃうのは嫌。
クールで、冷静で、でも優しい平良君が好きだよ」
「…そっか」
「うん。お兄ちゃんも二色さんも、高宮君も、みーんなフィルターが掛かってて。
私が何しても可愛いね、しか言わないの。これじゃ麻痺しちゃうよ」
「あの人たちらしいな」
「今日はありがとう。すっごく楽しかった」
「そっか」
「帰り気をつけてね、大事なベースさん」
「ああ」
「…おやすみなさい」
「お、おや、すみ」

また可愛らしい鼻先のキス。一瞬唇かと思って震えてしまった。
それから平良はらしくもなくオロオロしながらバイクに乗って。
事故らず帰れたのが奇跡だ。


「お兄ちゃんのエッチ!!!」
「ち、ちがうんだ!これには訳が!」

家に戻ると兄に呼ばれて大きな袋を渡された。
何かと思えば服のプレゼント。気が早いよと思いながらも
どんなものだろうと嬉しくて。開けてみたらビックリ。

「イヤらしい下着ばっかり!」
「いや、その。店でかなめと出くわして、それで張り合ってるうちに」
「これ着てデートしようなんて、お兄ちゃん…そんな趣味が!」
「ち、ちがうんだ!」

一種のいじめかと思った。こんな格好でデートなんて無論出来ない。
これじゃ変態だ。そんな事させて何が楽しいのかさっぱり分からない。
諒太郎は必死に弁解しようとしているけれど。

「私そんな人と付き合えないよ!」
「ごめん!違うんだ!だから!これは!」
「もう。兄妹喧嘩は外でしてほしいわねえ」

母親の苦情も聞こえないようでささらはまだ怒っているようだ。
兄から貰った服が全部エロいショーツやらで、服が1枚も無くて。
怒るのは当たり前と言えば当たり前。

「こ、こんなの…私」

ささらが不意に手に取ったのは黒のレースTバック。
男たるもの想像してしまうのは仕方がないというもので。
もわんもわんとTバック姿のささらのイヤーンな姿が。

「うっ」
「ど、どうしたの!苦しいの?」
「いや、いいんだ。…じゃあ、よかったら使ってくれ」
「う、うん…」

不味い!と股間あたりを隠す諒太郎。
そのまま急いで自室に戻るとズボンを脱ぐ。

「…何時になったらささらで解消できるんだろうなぁ」

寂しく慰めながらその日は終った。因みにささらは色々吟味した結果
1番地味なキャミソールを選び他は全部エリにプレゼントしてしまった。
それがまた彼女に逆らえなくなる要因にもなってしまう。

「おにーさまって本当にだいたーん」
「う」
「なーに?このスケスケのパンツーこんなのささらにつけさせたかったの?」
「…そ、それは弾みで」

やらしい下着を持ってほくそ笑む女王様。
諒太郎は逆らえない。

「弾みねー?ふーん」
「…何がお望みでしょうか、エリ様」
「今度優勝賞金で連休使っての旅行行くんでしょう?」
「…う」
「私をだまそうなんて甘いのよ。ささらは素直だから聞けばすぐ答えてくれるんだから。
で?また四人で寄ってたかってささらをどうするつもりなのかな?酔わせてさー」
「そ、それは」
「危ないからついていってあげる」
「いや、けっこ…」
「断るの?」
「…いえ、滅相も無い」

いつかシメる。絶対シメる。
血を吐きながら諒太郎は涙を堪えOKをだしたのであった。

つづく


2007/06/19

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