不思議












二色かなめとの出会いは小学生の頃まで遡る。彼は両親の仕事の都合で転校してきた。
そこでどうやって兄と仲良くなったのかは分からないけれど、いつの間にか一緒に居て
紹介された訳ではないがささらは兄について回っていたから自然と彼とも会話するようになった。
これって年上の幼馴染と言ってもいいのだろうか。ささらとしてはそっちのほうが身近に感じられていい。
といってもそこまで彼の過去を知らないし彼もあまり話したくないようだし。微妙なラインだ。


「ねえ、さっきから俺の顔ずっと見てるけど。何か言いたいことでもあるの」
「かなめさんって不思議だなって思って」
「なに。またバカに宇宙人だとか言われたの」
「お兄ちゃんはバカじゃないです」
「その反応はいいから。それで。何が不思議なの」


図書室の奥にある自習室で偶然隣り合わせた彼。たぶん計算ではないと思う。
先にささらが気づいてこっそりと突いたら凄く驚いた顔をしていたから。
周囲と同じ期末前の追い込みをしているのだろうか。そんなイメージはないが。
ささらはそのつもりで教材を机に置いている。


「なんとなく」
「俺には君の方が不思議だけどね」


時間帯もあってか人は少なめ。それでも周囲を気にして出来るだけ小さな声で話す。
ひそひそと押さえた声でもやはり彼の声は甘くてドキドキしてしまう。
あと勉強する横顔もチラっと見るとやっぱり綺麗。なんて観察している時ではない。
教材を開いてノートを開いてペンを握る。赤点はないと思うが勉強しておかないと心配。
エリも誘ったのだが何かと理由をつけて逃げられた。彼女は毎回ギリギリ。


「これどうやるんだっけ…」
「どれ」
「あ。い、いいです。自分で調べますから。かなめさんも追い込みでしょう?」
「隣でそんな唸られたら気になるよ」
「じゃあ席離れます」
「それはもっと気になるから駄目。見せて」


ニコっと笑って椅子を此方に持ってきて教材を見る二色。
ささらは申し訳ないと思いつつこの距離にまたドキドキする。


「あ。なるほど。分かりました」
「他は大丈夫?」
「はい。ごめんなさい」
「いいよ。その代わり一緒に帰ろう」
「はい」


何時もは困るくらいアピールしてくる彼も図書館では大人しく真面目に勉強している。
ささらにも優しく教えてくれる優しい理想的な先輩。男子とのかかわりなんて容姿をバカにされるか
出来る兄と比べられるかのどちらかしかなかったからこんな風に優しくされる経験なんて何もかった。
ちゃんとささらを女の子として扱ってくれる数少ない人。


「甘いもの食べたくない?」
「少しなら」
「じゃあケーキ食べよう」
「いいですね」


適度な所で切り上げて学校を出る。2人の距離は人が1人入れるくらい。
まだささらの中に恥かしいという気持ちがあって兄や平良のようには出来ない
二色の人気は凄まじく憧れる女子が沢山いて、あまり近寄りすぎると睨まれる。
それがイジメの原因になることもある。今はみんなが助けてくれるけれど。


「もういい?そっち行きたい」
「もう少し。そこの信号を渡ったら」
「わかった」


二色もささらの事を察してか学校ではあまり積極的な行動はしなくなった。
でも出るとすぐに近づいてきてささらに触れたがる。
足早に信号を渡るとすぐに近づいてきて手を握られた。


「今日はレアなものが見れました」
「なに」
「かなめさんが勉強してる所。何時もあそこで?」
「たまにね。家にいると違う事しちゃうから」
「分かります。私も家にいるとテレビみちゃったり漫画よんじゃったり」
「ははは」
「かなめさんもお兄ちゃんも必死に勉強してるの見たことないけど成績よくて羨ましい」
「諒太郎も俺も君の知らない所でしてるだけだよ」
「なるほど」
「普通の人と変わらないよ。何も特別な事なんてない」
「そっか。そうですよね」


ちょっと寂しそうな表情に見えたけれど。彼は何も言わなかった。
ほどなくしてささらが気に入っているケーキがあるお店に到着。
ケーキと紅茶を注文して暫し待つ。他にもカップルが目立つ店内。
友達同士なら分かるけれど彼氏と一緒なのにチラチラ二色をみてしまう彼女。
気持ちは分からないでもないけど、何故かささらが複雑な気持ちになってしまう。


「なに考えてるの。また馬鹿犬のこと?」
「かなめさんの事」
「どんな事?」
「内緒」
「何時も優しいささらちゃんが意地悪する」
「私だって意地悪しますよ。…なんて、嘘です。ごめんなさい」
「いいよ。そのかわり後でキスして」


キスしてなんてにっこり笑われると此方が恥かしくて赤面してしまう。
二色は満足そうにそんなささらを見つめて手を握ってきた。
お兄ちゃんとは違う優しさ。甘さ。そのまま彼に包まれたら心地よすぎて眠ってしまいそう。
眠り姫を覚ましに来た王子ではなくてそのまま一緒に抱きしめて寝てしまう悪い王子。


「…ぴったり」
「なにが?」
「内緒」
「また?意地悪は駄目だよ?俺君に意地悪されると暴走するからね」
「素敵って思っただけです」
「ほんとに?鬱陶しいとか気持ち悪いとか思ってない?」
「どうして?」
「本気で人を好きになることって無かったから。今凄い手探りなんだ。
構ってくれないと嫌だし拗ねるし。苛々するし。だから君に目一杯甘えてる。
けど、そういうの鬱陶しいって思わない?気持ち悪いとか。あっち行けとか」
「よく知らない人にされると困りますけど。かなめさんだし」


たまに激しく来られて体力的にも困る事もあるけどすぐに謝って優しくしてくれる。
最初は二色を余裕のある経験豊富な人だと思っていたけど。でもそうじゃない。
ささらは知っている。彼はとっても繊細で傷つきやすくてそして小さな子どもみたいだと。


「…俺だから、いい?」
「はい」
「そっか。よかった。あ、嫌だったら言ってね。そこ直すし我慢も出来るよ」
「かなめさんって可愛い所がありますよね」
「褒めてくれてるのなら嬉しいな」
「馬鹿になんかしてません。絶対にしません。ほんとに可愛いんです。ほんとです!」
「君が可愛い。じゃあ、いこっか。早くキスしたいな」
「…もう」


上手くしてやられた。でも、悪い気はしない。
お店を出るとまた手を繋いで歩き出す。目的地は公園。
ささらの家と二色のマンションの分かれ道付近にある場所。
何時もここで時間を潰してそれぞれ家に帰る。たまにお泊り。


「カップルだらけだ」
「わーみんな凄い大胆…っ」


何時もはそこまで人は多くないのにタイミングが悪かったらしく
他所の学校のカップルから自分たちと同じ学校の子たちまで
ちらほらと見えるイチャついている人たち。


「俺たちもキスしに来たんだよ?」
「そ、そんな淡々と」
「邪魔だな。…あっち行かないかな」
「じゃあ、ここはやめて」
「この先はもう分かれ道だ。君は試験勉強があるから泊れないと断るだろうし」
「……」
「キスしたいのに。…最悪だな」


彼がとても苛々しているのが隣で居ても良く分かる。
このまま別れるのは申し訳ないしお泊りをしようか。
なんてささらが考えていると彼が手を掴み早足で歩き出す。


「こ、ここ!?」
「5分。いや。1分でいい。…君を抱きしめる時間が欲しい」


連れてこられたのは卵型の滑り台の中。空洞で周りからは見えないけれど。
狭いし暗いし当然ベンチなんてないしあまり綺麗とも思えない。


「……」
「……ごめん。我慢、できるとか言ったのにね」


勢い良く抱きしめられるけれどささらは無言。
二色は申し訳なさそうに押さえた声で耳元で謝る。


「……へ…へ…ヘクシュッ」
「ささらちゃん?」
「…さ、さむい…この中寒い」


風は入らないけどひんやりして肌寒い。ささらはハンカチで鼻を拭くと
暖まろうと二色の胸にぎゅっと顔を埋める。


「…風邪ひくと不味いし、帰ろうか。もう1分経ったしね」
「キスは?」
「キスキス言ってるとどっかの馬鹿と一緒になっちゃうからね。いいんだ」
「ここのが見られなくていいです。かなめさんがしてくれないなら私がします」


そう言って顔をあげるとチュと二色の唇にキスする。


「ささらちゃん」
「今日は…お泊りしたいな」
「いいの。勉強は?」
「優しくて優秀な先輩に教えてもらいます」
「いいよ。教えてあげる。…ついでに、気持ちい事もね」
「かなめしゃ……クシュンッ……とにかくここを出ましょう」
「そうだね」


手を繋いで公園を後にするとそろそろ空が夕焼になる頃。
ささらは親と兄にメールして携帯をカバンに仕舞いこむ。
親はすんなりと許すだろうがきっと兄は何かとメールしてくるはず。
その返事は明日に回して今は二色の部屋へ向かう。


「暖かい…生き返るよぉ」
「ほら試験勉強するんでしょ。こっちおいで。犬はあっち」
「はい」


意外な事に夕飯を食べてからも真面目に勉強を教えてくれた二色。
白雪は構って欲しそうにじゃれてくるがここは我慢して。結局勉強が終わったのは10時。
一緒にお風呂に入ってそこでは何もせず。
でも出た後はバスローブだけしか着せてくれなくて。そのままベッドに倒れこむ。


「疲れてるよね。だから1回だけ。少しだけ、君をちょうだい」
「んっぁあ…あ…ぁん…かなめさん」


胸を両手で鷲掴みにされてぷっくりと勃起した先を指と舌で弄られる。
激しさはないけれどその代わりじっとりとネチネチと攻められて。
既にささらは甘い声を漏らし腰をくねらせ足をバタつかせはじめていた。


「分かってるよ。胸で凄く感じちゃうんだよね」
「ん…ぁ」
「もっとじっくりしてあげたいけどそれは今度」


唾液でテカテカとなまめかしく光る胸の突起を指で撫で二色は体を下げる。
ささらは既にもうとろんとした眼差しで彼を見ている。元から感じやすい子だったのかもしれないけれど、
色々と経験を積んでさらに感じやすくなったようで反応も色っぽさが増した。此方が困るくらいに。
ささらの体にキスしながら足を掴み股を開かせるとソコへ舌を這わせる。またビクンと彼女の体が跳ねる。


「ぁ…うぅう」
「いいよ普通に喘いで」
「だって…あ…あの時の声、おっきいって」
「言われたの?でも誰もそれで文句言わないでしょ?もっと喘げって言われるよね」
「で…でも恥かしい」
「じゃあ指で1回イこうか」
「え。あ。待っ……んふっ」


温かなソコは指を簡単に受け入れてくれてささらの反応も上々。
これで彼女の好む場所を攻め立ててやれば我慢できずに喘ぎだす。
二色はささらの顔をまじかで見ようと身を乗り出しキスが出来るくらいまで近づく。
指はゆっくりとかき回し始める。途中勃起してきた淫核を見つけ指で扱きながら。


「キスしたら君の顔が見れないのに」
「いいんです…」


ささらは二色の首に手をまわしキスを強請る。
そうすれば唇はふさがるし喘ぎ顔も見られないという彼女の策。分かっているのだが
彼女におねだりされると断れない。ということで二色も舌を絡めた深いキスで応じる。


「…凄いいい音がするよ」
「ん……んっ…ぁぁああっ」
「あ。イっちゃった?…ちゃんと見てなかったな」


果てるささら。抱きついていた手が離れ二色は身を起こす。
まだ息の荒い彼女を休ませる。けれど視線は彼女の体。
本人はコンプレックスなのだろうが男からするとソソル。
さりげなく太ももから内股あたりを優しく撫でる。


「くすぐったい」
「君が色っぽくてつい」
「かなめさんの方がずっと色っぽいですよ」
「それって褒め言葉になってるのかな」
「たぶん」
「君が褒めてくれるなら何でもいいか」
「ね。かなめさん」
「なに」
「座ってしてほしい」
「座位がいいんだ」
「…うん」
「ギュってして欲しいってこと?」
「うん」
「分かった。じゃあ、来て」


彼女から体位のリクエストが来る事は珍しい。
それもギュッと密着できるほうがいいと言われるなんて。二色は嬉しく思いながら
ベッドに座りささらが起き上がり膝に座ってくるのを待つ。彼女はゆっくり起き上がり
確かめるように二色自身を自分にあてがって腰を沈める。


「ぁ…ぅううう」
「気持ち良さそう。…俺もいいよ。凄くいい」
「んっ…よかった」


ギュッと抱きついてくるささら。二色も痛くないように気遣いながら抱きしめ返す。


「動く前に言ってもいい?」
「何ですか?」
「好きだよ。大好きだよ。…ささらっ」
「…んっ…ぁあっ…かなめさんっ…かなめさ…っぁああ…んっ」


言いながら既に腰を打ち上げ始めてささらは返事どころではなくなって。
声を我慢することも出来ずひたすら喘ぎ続けるしかなかった。勉強に追われて久々だったせいか
何時も以上に気持ちよくて1回だけで終われるか自信がなかったけれど、
始めた時間が遅かった所為か気づいたら意識がなくて。目が覚めたら朝というあっけなさ。


「ささらちゃんその臭う毛ダマは学校へは持って行けないんだよ?」
「で、でも私と一緒に行きたいって白雪君が必死に訴えて」
「普通に先生に没収されちゃうから。こいつは置いといて学校へ行こうね」
「先輩…白雪君をお願しますっ」
「もう。お泊りする度これだ。いいからささらちゃん。行くよ」
「また来るからね。ああ。そんな引っ張らないで白雪君。すぐだから…」


寂しそうにしがみ付いてくる白雪に後ろ髪引かれながらもささらは二色と登校。
最初は変な感じがしたけれどそれも回数が増えると普通になっていった。
エリも彼氏の家にお泊りした時は途中まで一緒に行くと言うけれど、慣れとは怖いものだ。


「また俺の顔見てる。やっぱり不思議?宇宙人?」
「カッコイイって思っただけです」
「ふーん」
「優しくてカッコイイちょっと不思議な幼馴染」
「……彼氏候補のって入れておいてくれない?」
「あ。否定しなかった。じゃあ、そうします。彼氏候補の不思議な幼馴染」
「不思議っての何時になったら消えるのかな。不思議ちゃんキャラは俺じゃないよね」
「ふふ。いいんです。ミステリアスな感じで」
「そうなのかな。なんか違うような」


彼女の事だからそんな大人なイメージでなくだいぶ可愛い方向に見てそう。
それは男しては少々複雑なものがある。と、そんな2人の前に見覚えある男。


「ささら!よかった!無事か!」
「あ。アホがきた」
「お兄ちゃんはアホでも馬鹿でもないです。ふつーです!」
「普通なんだ」
「ん?なんだ?何の話だ?」
「何でもないよ。とりあえずお前は一生息をするな臭いから」
「朝から喧嘩売ってんのか買うぞコラ」
「また始まった。何でこうなっちゃうのかなぁ」


お兄ちゃんを前にするとさっきまでのかなめさんじゃなくなる。
そこもまたささらには不思議だ。


おわり

戻る

inserted by FC2 system