沈丁花 第5章 



話し合い...80おまけ






 車から降りて、猪田たちと別れ。怖い顔してラブホ一直線の彼氏と夜道を歩く。
何か話をしないと気まずい。どうせ最後はひどい目に合わされるのだろうけど。
 わかっているからこそ、この無言の間が不気味で怖くて。春花は話を切り出す。
「で、でも。凄いですね。私の場所わかっちゃうなんて。さすが幸さん」
「何時ものルートちんたら歩いてるわけじゃないんだ、流石に幸だってわかりゃしねえよ」
「え?でも」
 幸は一直線に春花にむかって走ってきてくれた。何時ものように来てくれたと思ったのに。
「お前は予想が全くつかねえ。だから事前に知り合いやら店出してる連中片っ端から声かけてある。
お前が一人でいる所見たらすぐ連絡しろってな。さっきはホストの野郎から連絡があった」
「あ。そう。なんだ」
 あっさり言うけど、皆で私を見てたんですか?それは凄い怖いんですけど。
「それが嫌ならGPSでもつけろ」
「子どもじゃないんですから」
「そうだな。ガキのほうがまだ聞き分けがある」
「……すいません」
 まだ怒ってますよね、そうですよね。春花は押し黙りただ黙々と彼の後ろを歩く。
そんなつもりじゃなかったのに結局春花は自分から別れ話を持ちかけておいて嫌がって
叫んで喚いてテンパって走ってたった一人で敵の中へ突撃しようとした馬鹿女。
 本来なら呆れられて捨てられてもおかしくないかもしれない。
「…飯、どうする。先何か食うか」
「ううん。…いい」
「珍しいな」
「……」
「入るぞ」
「はい」

 ホテル前。神妙な面持ちの春花と先程までと代わって何時になくテンションの低い彼氏。
静かに中へ入り部屋を選びエレベーターを上って客室へと入った。とても質素な室内。
 何時も特にこだわって選ぶ事もないけれど。まずはシャワーを浴びようか。春花は風呂場へ。
「俺も入るわ」
「…はい」
 出来たら一人が良かったが今はそんな事を言える立場でもなく、頷いて一緒に向かう。
春花が脱ぎ始めても襲い掛かってくる様子はなくさっさと服を脱いで先に風呂へ。
 怒っているのか、それともこれからが本番なのか。分からないけれど彼女も追いかけて。
「何処も怪我してねえな。よかった」
 入ったらじっと裸体を見られて、ついに来るかと思ったら怪我のチェックだけで終わった。
さっさと体を洗うとためておいた風呂につかって無言待機。春花にも来いと言っているのだろう。
 急いで体を洗ってその膝に座る。
「……清十郎さん」
 最初は彼に背を預けて座っていた春花だが促され体を横にして見つめ合う。
 キスでもされるかと思ったが相手はそんな気配は一切なく真面目な顔だ。
「なあ、春花。腹割って話そうや。お前の考えてること全部言ってくれ」
「え」
「それに俺が何処まで答えられるか、それで決めたらいい。俺と別れるかどうかを」
「で、でも」
「俺はお前と別れたくはねえ。けど、嫌がる女無理やり束縛するほど腐っちゃいねえからさ。
どうしてもお前が辛抱ならねえってなら潔くお前の前から消えてやる」
「……」
「お前の話をきちんと聞いてねえってのがまず嫌なんだろ」
「あれは」
 確かに、そんな事言ったかもしれない。けど。
「聞くから。考えるから。だから好きなだけ言え」
「……私は、ただ。毎日じゃなくてもたまには普通に恋人同士な事がしたいなって」 
「……」
「でもそんな事清十郎さんには重荷だろうし、その上今回みたいな馬鹿な事するから。
私は貴方の恋人には向いてないのかなって思ったんです。
自分の将来もちゃんと考えきれてないのにって。凄い今ネガティブでいっぱいで」
 そこに追い打ちをかける貴也のこと、長井のこと。もう全部嫌になりそうで。逃げ出したくて。
疑心暗鬼で彼と黒蜂のボスを疑ってみたりして。どうかしてたとしか思えないテンパり具合。
「そうか。そうだな。お前は大事な時だった。それにこっちの事情を持ち込むのは悪かった」
「それは」
「お前には自分のことを第一に考えて欲しかったんだ。こっちは気にしないで。
けど、そうはいかねえよな。……ほんと悪かったよ、春花」
「清十郎さん」
 どうしよう、こんな謝られると「別れよう」ってあっさり言われそう。
 オロオロする春花。
「将来のことは自分にしか決められねえから、俺は口出しはしねえ。
普通ってのがよく分からねえからお前さんの言う恋人同士らしいことも自信がねえ。
こんな野郎じゃ嫌だろうな。そりゃそうだな」
「そんな事ない。清十郎さんは優しいし、温かい。は、…初めてちゃんと好きになった人だもん」
「春花」
「だからこそ、余計に考えてしまって。私は経験が無いから。おかしいこと言ってるかもしれないけど」
「……」
「きちんと話し合いをしないで自分のその時の感情だけで別れようなんて言ってごめんなさい。
交際するって私だけの感情じゃないのに。…それに、私、清十郎さんが好きだから。大好きだから」
 そう言うと春花はぎゅっと彼に抱きつく。追いかけて来てくれて、抱きしめられた時にはもう
彼と別れたい気持ちなんかなかった。がっしりとした体に優しいぬくもり、ちょっぴりのタバコ臭さ。
 やっぱり好き、愛しくてたまらないって心から思ったから。
「……そうか、じゃあ話は流れたってことでいいか?」
「はい」
 すぐ逃げたりしないで、もう一度頑張ろうと決めた。
「そうだよなぁ?俺に何も言わねえでそれで一方的に別れるとか冗談じゃねえよ」
「……あれ」
 なんか言葉が怖いぞ。
「これがお前じゃなかったらとっくにぶっ飛ばしてその辺の川にでも投げ捨てる所だ」
「……」
「話は聞いてやった。後はお仕置きだな」
「あ、あの。あの。恋人同士」
「だから自信ねえつったろうが。…大丈夫、中には出さねえから」
「そ、そういう次元のお話じゃ!」
「何だよ出して欲しいのか?それとも飲みてえのか?」
「……優しさが欲しいです!お願いします!優しくして!」
「俺は優しくて温かいお前の初めての男だぞ?何今更なこと言ってんだ?あ?」
「や……や、やくざっ」
「それも今更」
 騙されたの?さっきまでの真面目な話は表情は何処へ行っちゃったの?
 ショックで固まっている春花を抱きかかえるとさっさと風呂を出てタオル1枚持って
 軽く体をふいたらベッドへ。優しく寝かせるなんてあるはずもなく雑に転がされた。

「……」
「何ビビったツラしてんだよ。俺の裸なんざいっつも見てるだろ?」
「な……何かすごい…んですけど」
 主に下半身のほうが。真面目な話をしてたはずなのに何でこんな準備万端?
「そりゃお前が可愛いからさ」
「ぜ、ぜったいうそっ」
 ニヤっと意地悪く笑う彼氏。これは断じて優しさだとかでなく、加虐心とやらがくすぐられている顔だ。
つまり春花をひどい目に合わせるサイン。ジリジリと追いつめられて逃げていたがついに壁に迫られ、
 ふるふると触れていたら彼の顔が耳に近づく。
「こっちもきちんと話しあおう、な?」
「……」
「お前のそのツラ何時見てもいいよなぁ」

 満面の笑みで言われても全然嬉しくないしまず褒めてもない

 やっぱりさっきのナシで。考えなおさせてください。

 春花の言葉はあっけなく無視されて飲み込まれた。

続く



2016-02-10

........


inserted by FC2 system