兄・王・子


 ...02


「あれ…思ってたより高いな、…せめて靴下くらい買えると思ったんだけど…」

キラキラしたブティックから打って変わって庶民的なお安い衣料品店へ移動。
そこで前から狙っていた安い靴下3足セット。しかも今日はセールの日だ。
きっと買えると思っていたのに、それでもポケットから出した小銭では到底足りそうにない。
お使い帰りの道で拾ったりご機嫌をとってなんとか必死にかき集めてきたのに。

「あ…しまった!買い物していかないと!」

がっかりした所でお店を出て、渡された時計を見て慌てて離れる。
もっともっと眺めて居たいけどそれは叶わぬ夢。
夢から現実へ戻される瞬間は何時も残酷で冷たくて涙が出るほど悲しくなる。
だけど受け止めないといけない。泣いても泣いても、これしかないのだから。

「おっと」
「すいません!すいません!」

必死すぎて前を見ていなくて誰かにぶつかった。
衝撃が思いのほかあってよろけそうになったのを相手に抱きとめてもらう。
見れば外国の人。背が高すぎて顔はよく見えないが綺麗な金髪が見えた。
目を凝らしていると彼の顔が近づく。綺麗な青い目で、優しく微笑んでくれた。

今までの人生の中でこんなに優しく笑ってくれる人なんていただろうか。

そうだ、ずっとむかし。居たっけ。

「背が伸びたね。少しだけ。…もう、高校生だったかな?」
「え?え?…あの」

なんだか私を知っているような口ぶりだけど、いまいち思い出せないでいると
ぎゅーっと抱きしめられる。いきなりで悲鳴もでなかったが、びっくりするくらい暖かい。
何年ぶりだろう。人のぬくもりに触れるのは。忘れかけてた。

「忘れちゃったかな。サラちゃん」
「……セシル…お兄ちゃん…?」

お兄ちゃん。お兄ちゃん?本当にお兄ちゃん?嘘じゃない?夢じゃない?
嬉しそうな声を一瞬漏らすけれど、でも抱きしめる手をひ弱な力で離して。咲良は俯く。
とても、辛そうな顔で。それでも必死に言葉をつむぎだそうと口が動く。

「…ん?どうしたの?思い出してくれたんだよね?」

その声はどこまでも優しい。


- つづく -





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