兄・王・子


 ...10


「えーと、君が咲良ちゃんね」
「はい」

そしてとうとうスタッフルームへ入り、その奥の事務所へ。
さらにタバコ臭いし怖い人はいるし。体がこわばる。

「悪いけど君は雇えないよ」
「え?」

だが帰ってきた返事は意外なものだった。

「さらちゃんは俺たちの大事な妹だからね」
「こんな薄汚い店の空気なんて1秒だって吸わせたくない」
「お兄ちゃん……」

店長らしき男の後ろに男が2人。1人はセシル。そして、もう1人の兄明華。
どうやら兄同士で知り合いなようで。もしかしてお友達なんだろうか?
ということも、咲良は知らなかったようで。一緒に居てびっくり。

そんな彼女を連れてさっさと店を出て、すぐに用意されていた車に乗り込む。

無事に出てこれて咲良は安堵して。それで。

「…咲良?」

明華の顔をじーっと見つめる咲良。

「さらちゃん、もしかして明華のことわからない?」
「そんな事はないよね?僕はいつも君を抱っこしてあやしていたんだよ?」
「あ…あすか…にいさま」
「そうだよ!良かった」
「明華にいさま…」

何時も優しくてとびきり美しいお顔の明華兄様。
まさか彼とも会えるなんて。凄い偶然。奇跡?

「咲良、もう大丈夫だよ。僕はもう君に辛い思いなんかさせない」
「でも」

ぎゅっと抱きしめる明華。やはり小さい。

「僕らを信じて欲しいんだ」
「もう、さらちゃんを離したりしないからね」
「…うん」

2人はこの愛らしい妹の頬にそれぞれキスをした。




- つづく -





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